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仮)森本陽呂の受難
3.

体育が終わったあと、先生に用具の片付けを頼まれた時のことだ。

グラウンドの端にある用具小屋が、三年の不良たちの溜まり場になっていることは知っていた。だが、学年が違い、校舎も違えば、普段接する機会などない。

その日は、たまたま時間割に変更があったのだ。

体育が四時限めになって、片付けが昼休みをまたいでしまい、用具室に来た三年たちとバッティングしてしまったのだ。

片付けを終え、小屋から出た瞬間に、目の前にいた赤い髪の男に腕を掴まれた。

その男は、びっくりして固まっている俺を凝視し「女かと思った……」と呟いた。

俺は、コンプレックスである“女顔”を揶揄されムッとしたが、相手が悪い。弱々しく「離してください」と言うのがやっとだった。

「おまえ……声も可愛いな。マジで男か? 見ない顔だな、一年か?」

男は、俺の言ったことなど、まるで聞こえていないかのように話し続ける。腕だって、掴まれたままだ。

「いえ、二年です」

「へぇ、全然気づかなかったぜ。なあ、おまえ名前なんてーの?」

言いながら、どんどん顔を近づけてくる。

なんで俺なんかに絡んでくるんだよ、と焦るが、しっかりと掴まれた腕は、答えないと離してくれそうにもなかった。

どうしたらいいのかわからず、視線がさ迷う。緊張で、喉が張り付き、若干パニックに陥りそうになったときだった。

「たける!! てめえ、いい加減にしろっ」

突然、背後で怒鳴り声が響いた。

俺は、体をびくりと揺らし、恐る恐る振り返った。

用具室は暗く、こちら側からはあまりよく見えなかったが、声の主は先に入っていった他の三年のもののようだ。

「獅童……だってよ、こいつ……」

「だってじゃねーよ。おまえ、ホモかよ」

よく響く低い声は、ゆったりとしているが、どこか高圧的で、有無を言わさぬ力強さがあった。たけると呼ばれた男は押し黙り、俺の腕をしふしぶといった感じで離した。

ちょうどその時、タイミングよく俺を呼ぶ隼人の声が聞こえてきた。

「あの……、じゃあ、失礼します」

俺は、ここぞとばかりに脇をすり抜け、一目散に駈け出したのだ。





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