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仮)森本陽呂の受難
4.

カツッ、カツッ、とヒールを鳴らし、形の良い脚が目の前で止まった。

身を屈ませ「お待たせ」と覗き込んでくる先生の胸元に、俺の目は釘付けになった。前屈みに大きく開いた襟ぐりから零れんばかりに盛り上がった双丘が、目の前でふるふると揺れている。

「あ、はい……あの、お願いします」

心臓がバクバクと高鳴る。あらぬ所まで反応してしまいそうで、俺は慌てて視線を逸らした。

耳まで真っ赤になってるんじゃないかと思うほど顔が熱い。俺は平常心を取り戻そうと深呼吸を繰り返した。

先生は、そんな俺の状態を知ってか知らずか「あれ? 顔、赤いわよ」と頬に手を当ててきた。

冷んやりとした白い指が肌の火照りを吸い取るようにひたっと張り付く。

「いや、あの……今日ちょっと気分も悪くて……はは」

誤魔化すように視線を泳がせる。

「えっ、そうなの?」

「はい、朝から。なので今日はこのまま帰ろうかと……」

先生はテーブルに置かれた俺の鞄をチラリと見やった。

「森本君……電車よね? 大丈夫なの?」

「 え!? あ、はい。一応歩けるんで大丈夫です」

名前を呼ばれ、俺は驚いた。今まで、先生とまともに話したことなどなかったはずだ。それなのに俺を知っていてくれて、帰りの心配までしてくれるなんて……。

「まぁ、とりあえず冷やしましょうか」

先生はそう言って俺の脚を持ち上げると、その抱えた脚とソファの間に体を滑り込ませるようにして座った。

「へ?」

思わぬ光景に目が点になる。

俺の足はなぜか先生のむっちりとした太ももの上に置かれ、あろうことか脚の付け根ギリギリまでずり上がったタイトスカートからは魅惑の三角地帯が覗いている。

(マジかよ……)

本来ならばこれは非常に喜ぶべき状況だ。

だが、今は……今は不味いと俺は必死に目を逸らした。

「うーん……。靭帯の損傷はないと思うんだけど……」

そう言って先生は、俺の足に乗せた氷袋を固定するように包帯を巻いていく。その度に持ち上げられた足先が、先生の弾力のある胸に押し付けられる。ブラウス越しにでも解る柔らかな感触に俺の理性は限界だった。反応しだしたソコが徐々にズボンを押し上げ始める。

(ひっ……、やばい)

隠さなきゃ。そうは思っても足を動かすことはできないし、手で隠せばいいのだろうけど、そんなのいかにもだ。だが早くなんとかしないとバレてしまう。

「痛みが続くようなら病院に行ったほうがいいわね」
「え……はいっ」

「とりあえず、二十分くらいはこのまま冷やしておきましょうか」

先生は視線を下に向けたまま会話を続ける。

俺は焦った。この膨らんでしまったモノをなんとかしなければと必死に辺りを見回す。

ふと、テーブルの上に置いた自分のバッグに目が留まった。

(よし、これだ! )

気付かれないようにそっと手を伸ばす。あともう少しで手が届くと思った瞬間だった。

「はい!終わりっ」と、勢いよく顔を上げた先生と目が合った。

「ひっ」

反射的に右足が上がった。俺は伸ばしかけていた手を慌てて引き戻し背中を丸める。先生は俺の不審な行動にきょとんと首を傾げた。そして視線が徐々に下へとおりていく。

「……あ」

(バレ……た?)

最悪だ。先生の口が“あ”の形のまま固まっている。

「あ、あの、コレは……その、ち、違うんですっ」

自分でも何がだよとツッコみたくなるほど動揺し、俺は今更さらながら手でソレを抑え込んだ。恥ずかしさと居た堪れなさに先生の顔をまともに見ることができない。

最低だ……絶対、気持ち悪い奴だと思われたっ)

俺は飛んでくるであろう罵声を覚悟し、ぎゅっと目を閉じ身構えた。






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