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仮)森本陽呂の受難
1.

(ひっ……またかよ)

超満員の通学電車。体を襲う不快な感触に、全身の毛がぞわっと逆立った。

……痴漢だ。

明らかに男のものだとわかる大きな手が尻の上で這いまわっている。

たまたま当たっただけ、などという類のものでは決してない。なぜなら、昨日の朝とまったく同じ状況だからだ。しかも隣りには、これまた偶然にも、昨日と同じ女性が立っている。

余談だが、かなり美人なお姉さんだ。痴漢はこの美人のお尻を触っているつもりなのだろう。

(二日連続で痴漢される男……ダメだ。笑えない)

この間抜けな状況から、なんとか逃れられないだろうかと身を捩ってみるが、体の向きを変えるどころか、腕一本動かすことすらままならない。

情けなくて、涙が出そうになっていると、それに追い打ちをかけるように、頭上から、舌を打つ音が聞こえてきた。顔をあげると、眉をひそめた年配のサラリーマンと目が合った。こんな狭い中、もぞもぞ動いてんじゃねえよ、という顔だ。

俺は、体から力を抜き、我慢するしかないのかと溜め息を吐いた。

幸い俺は男だ。ただの勘違いとはいえ、一人の女性を痴漢の魔の手から救う事ができたのだ。そう思えば、尻ぐらい安いものじゃないか。

そう自分に言い聞かせてはみても、やはり同性に体を触られるなんて気持ちのいいものではない。 しかも、痴漢の手は、まだしつこく尻を触り続けている。抵抗がないから調子に乗っているのだろう。昨日は、軽く触れる程度だったのに、今日はそれとわかるぐらいに、あからさまで、しつこい。終いには、尻を鷲掴みにし、ぐにぐにと揉みだす始末だ。

(マジかよ……普通気づくだろ? 男と女の違いがわからないのか? この鈍感野郎!!)

心の中で毒づくが、身動きが取れないのだから仕方ない。

結局、俺は降車駅に着くまで耐え抜いた。そして勘違いの痴漢野郎は、俺が降りる直前まで執拗に尻を揉み続けていた。






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