黒の誓い
1
ヴァルディスに言われるまま空腹を満たし、もう一度眠りに落ちたレオニクスが目覚めたとき、朝日がすでに昇っていた。
むくり、と起き上がり、寝間着を脱ぎ始める。
召喚剣士服を取り上げようとして伸ばした手は空を掻いた。
不審に思って目を上げれば、あるはずの服はなかった。
「・・?」
あたりを見回すが、見当たらない。
確かに昨夜、脱いでかけたはずだ。
念のためクローゼットを覗いたがやはり無かった。
「ヴァルディスー」
扉を開き、顔を覗かせた先のリビングで優雅にお茶を飲んでいたヴァルディスを呼ぶ。
竜はレオニクスを見、茶器を置いた。
「何だ、レオニクス」
「俺の服知らないか?」
「服?・・ああ、あの汚れたやつか」
ヴァルディスは少し考え、思い出したように言った。
確かに汚れてはいたが、ずばっと言い当てられ、少しレオニクスは肩を落とした。
「まあ、それなんだが」
「それならあそこにあるぞ」
ヴァルディスが指差した先に綺麗にプレスまでされた制服が見えてレオニクスは呆然と見つめた。
よごれなんて全く無く、綺麗な折り目がつき、まるで新品。
「どうしたんだ、これ・・」
思わずレオニクスは上半身裸なことも忘れて制服に歩み寄った。
「ハレスがやったんだろう」
「ハレス?」
聞いたことの無い名前にレオニクスは首を傾げた。
ヴァルディスは黙って前を見た。
目線を追うと、ダイニングに誰かの後姿があった。
(誰!!?)
ヴァルディスが連れてきたのかもしれないが、ここはレオニクスの家だ。
家主の自分が知らないことにレオニクスはショックを受けた。
そうこう考えているうちにその誰かはくるっと振り返った。
ヴァルディスとは違うがやはり綺麗な顔のその人はレオニクスを認めると微笑んだ。
細い身体を礼儀正しく折る。
「初めまして、レオニクス様。私はヴァルディス様の侍従のハレスと申します」
「あ、俺はレオニクス・ザーヴェラです」
釣られてお辞儀をしたレオニクスをヴァルディスが目を細めて睨み付けた。
「おい、お前は俺の主だぞ。みだりに頭を下げるな」
「え?でも、頭下げてくれたぞ?」
「ヴァルディス様の仰るとおりです、レオニクス様。ヴァルディス様は我らの王、そしてあなた様は王の契約を受けられた方・・我々にお辞儀などせずとも良いのです」
ハレスはきっぱりといった。
しかし王族なんて分からない庶民代表レオニクスはそういわれて頷けるわけもなく。
「そう言われましても」
案の定呻いた。
だいたいヴァルディスはいいのだ。はべらすことに慣れてるし似合っているのだから。
だがレオニクスは全くそんな経験がない。
しかも相手は黒竜王の側近。
普段ならレオニクスが敬語で侍っているはずの竜。
レオニクスには受け入れがたかった。
「だいたいお前俺に敬語使わないだろう」
「それは」
言いかけてレオニクスは首を傾げた。
「そういえばヴァルディス、何で敬語使わない俺を赦すんだ?」
「お前だからだ」
答えになっていないがヴァルディスはそれ以上言わずに紅茶を啜った。
見計らったようにハレスがおかわりを差し出した。
「レオニクス」
「何だ」
未だに敬語を使わないべきか悩むレオニクスに高圧な声がかかった。
めんどくさいがちゃんとレオニクスは答える。
「いい加減服を着ろ」
「は?ああ、でも食事で汚れたら嫌だからまだ」
「着ろ」
レオニクスが渋るとヴァルディスが睨み付けた。
相変わらず怖いそれにレオニクスは渋々制服を着る。
「ハレスさんすみません。汚れていたから大変でしたよね」
「いいえ勝手にしたことですから。お気に召しましたか」
「はい」
ハレスが微笑み、レオニクスも笑った。
だがそんな和やかな空気をヴァルディスが裂くように割り込み、過ぎていく。
「うわっ、何だヴァルディス」
「邪魔だ」
「狭くて悪いな」
「ヴァルディス様は嫉妬なさっているんですよレオニクス様。私にばかりレオニクス様が笑いかけなさるから」
「ハレス」
ヴァルディスはひとにらみでハレスを黙らせると不機嫌にテーブルについた。
「座れレオニクス。共に食べよ」
「いや、ここ俺の家…いや何でもない」
何となくハレスは正解のような気がしてレオニクスは座りながら疑問に思っていた。
ヴァルディスは何に嫉妬したのだろう。
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