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黒の誓い
 6※




「っ、あ、ダメだってヴィー。ここ、執務室っ」

ヴァルディスにシャツをたくしあげられ、膝に乗り上がりながらレオニクスは甘い息を吐いた。鍵もかかっていない執務室でやるのは初めてだ。

ヴァルディスはやめるつもりがないらしく、極上の美貌を妖しく笑ませてレオニクスにキスした。
ベストを剥いで赤いシャツを器用に開かせる。首筋を嘗めながら日々愛する体を撫でるとレオニクスは小さく喘いだ。可愛い可愛いヴァルディスしかしらない肉体。鍛えた筋肉が腹を割り、隆起するのも性欲をそそられた。

「誰か、来たらっ…」

「構わぬ」

「俺は構うって…っあひっ」

敏感な乳首をかじられてレオニクスはびくびく跳ねた。とにかくヴァルディスがエロくて、視界から理性を奪われる。

「感じよ」

「や、だめ、かじったら…っひぃっ、イイッ…あ、きもちいっいっ」

ヴァルディスの頭を抱き込み、ベルトが引き抜かれると腰をゆらす。
揶揄するのにうなずきながらレオニクスはヴァルディスの手にぺニスを押し付けた。

「その手で、イカせてっ」

「いやらしい妃だな」

誰か来たら、見せつけてやろうか、と囁きヴァルディスは望み通り、触ってやった。熱いこのぺニスはまだ誰にも子種を植え付けたことのない、無垢なものだ。
触っただけで気持ちいい、イきたいとレオニクスはねだる。乳首を尖らせて、縞模様まで浮かべてレオニクスは生えてしまった尻尾をヴァルディスの腕に巻き付けた。

「もっとぉ、ヴィー、イきたいぃ、抱いて、はやく入れて」

「そう急くな」

もっと可愛いレオニクスを堪能したいのだ。ヴァルディスは早く、としがみつくレオニクスに深いキスをしながらアナルを探った。まだ乾いているそこに構わず指を差し込む。

「や、っいたひっ、いたひぃっ」

「泣いても可愛い奴」

痛がる顔にキスを落として片手はぺニスを可愛がる。痛みと快楽にごちゃ混ぜになった頭で喘ぐレオニクスのアナルはやがて腸液で濡れだしてヌチャヌチャと卑猥な音をたて始めた。

「あぅっ、あひっ、ヴィー、もっとぉ」

「痛いのだろう?」

「やん、痛くない、いたくなひ、からぁっ」

毎日ヴァルディスに愛される体は受け入れる準備を早々に整えた。
すっかりヴァルディスのぺニスに馴染んだ胎内が指では足りないとうずき始める。
それでも焦らすヴァルディスをレオニクスは睨んだ。そしてヴァルディスのベルトをはずし、お目当ての怒張を取り出すと自ら腹に納め始めた。ヴァルディスは驚いたものの楽しそうに観察した。時折邪魔をしては喘がせる。

「あんっ、おおき、ぃっ」

ヴァルディスの怒張が飲み込まれていく。二人分の体重にぎし、と椅子が軋んだ。

「はぁっ、入っ…た」

くわえこんだ穴が拡がりきり、迎えた主人に喜ぶ。レオニクスのこぼす息もこれまで以上に甘かった。

さぁ動こう、としたとき、ガチャ、とドアが開いてしまった。

「申し訳ありません、ノックはしましたが、緊急なので…………あ、お楽しみでした?」

資料を見ながら入ってきたハレスは一瞬沈黙し、固まるレオニクスを見て頬をかいた。
ヴァルディスに、下肢を出したレオニクスがまたがっていれば誰だってわかる。
気まずいのはどうやらレオニクスだけらしく、ヴァルディスはあっさり許した。

「構わぬ。用件は?」

「ちょ、あんっ」

「はい。ジェームズ博士からだいたい出来たとの報せが」

「ほう」

ハレスは好色も侮蔑も驚愕も浮かべずに仕事を始めた。ヴァルディスは資料を受け取り二言三言指示をする。セックスをやめないのは、可愛い妻を誇示したいからであり、ハレスも可愛く喘ぐレオニクスに感心していた。

「わかりました、ではそのように致します」

「ああ」

ハレスが一礼するとヴァルディスがレオニクスをデスクに押し倒した。
つややかな悲鳴を背後にききながら、ハレスは扉を閉め、立ち入り禁止の看板を立てた。細やかでさりげない気配りができてこその、腹心というものである。


□□□□






シリウスの神殿を訪ねたアルスは目を丸くした。

シリウスが剣を持って構えている。アルスに気づくとひとふりの剣を投げて寄越した。
ずしり、と重量のあるそれを軽々と振り回しアルスは眉をあげた。

「なんだ?」

「どうだ?戦わぬか。4億106万5268敗4億106万5269勝のままだろう」

「それはすべての勝負の合算だろう。剣で負けた覚えはあまりない」

「ああ、剣で勝つのは稀だ」


シリウスは言うが早いか剣をなぎ払った。速すぎて数秒遅れて石像が切れた。受け止めたアルスは弾き返し、蹴りを鳩尾に叩き込んだ。しかしするっ、と避けられて逆に足を掴まれる。ぶんっと投げられ、空中で体勢を整えて壁を蹴ったアルスと、地を蹴ったシリウスが空中で激突した。
重い金属音と揺れる神殿。剣が交わる度に放出される衝撃波に神殿が耐えきれず、崩れていった。
何回か空中で打ち合い、互いに弾いて離れた。

「準備体操にもならぬな」

「狭すぎる。おまえの神殿を砂にするわけにもいくまい」

「もう崩壊している」

シリウスが外に出た。美しい、最高神の領域は見渡す限りだ。
がらがらと崩れていく神殿を背後にアルスが剣を振り上げる。シリウスが避けたコンマ数秒あとに振り下ろされた剣は文字通り大地を切り裂いた。背後から横に払われた剣を上半身を下げて避けたアルスはガシッとシリウスの衣を掴んで投げた。剣を支柱にシリウスは回転し掴まれた衣をするりと脱いでアルスを引き寄せた。

突き出した剣は数ミリのところを掠め、懐に飛び込んだアルスは剣の柄でシリウスの胸をついた。

受けてしまったシリウスは吹き飛ばされ、アルスの神殿に激突した。ビシッと無数の亀裂が入り、神殿は崩れ落ちる。

数秒後、内部からの爆発のように瓦礫が吹き飛び、シリウスがゆらっと立ち上がった。長い銀髪を束ねているのを見てアルスは口角をあげ、頭の布を解いた。

「まだ本気にならないか?」

「その気にさせてみろ」

自分から誘っておいて、と思いながらアルスは口布をおろし、構えた。シリウスがトンっと飛び上がる。その剣先に雷の竜を見てアルスは舌打ちした。竜は轟音を立ててアルスを飲み込み霧散した。煙の中から無傷で飛び出すアルスにシリウスは笑った。
ぶんっと同時に振られた剣はお互いを掠め、鋭い瞳が交錯する。

弾かれた剣撃は山を切り裂き大地を割った。
山側へいったアルスを見てシリウスが指を鳴らすと一瞬にして木々が出現しアルスを取り囲んだ。太い幹や蔦に視界を奪われ、アルスは瞬時に木々を灰にしたがその頃には目の前にシリウスが迫っていた。その攻撃力のすべてを込めた一撃が繰り出され、受け止めた剣にヒビが入った。衝撃波はアルスをまともに襲い、背後の山を跡形もなく吹き飛ばした。大地すら大きく抉れ、耐えきれずにアルスは飛ばされて地面に激突した。その衝撃にまた一段とヘコんだ地面を中心にして地平線まで広がりそうな亀裂が入る。

トドメを刺すべく降りてきたシリウスの剣を蹴りあげ、アルスは跳ね起きた。

横に払えば避けられ振りおろせば受け止める。音すらしない速さで繰り広げられる戦いは神であっても視認出来ないだろう。

何回目かでシリウスの防御が崩れた。アルスが剣を振り上げる。

並々ならない力と共に、アルスの剣がシリウスを捕らえた。

アルスを中心として轟音と共に、大地は爆発しがらがらと崩れ、最高神の領域は衝撃波にしたがって塵芥すら残らぬほど破壊された。

「4億106万5269勝だ」

なにもなくなった白い世界でアルスは剣を破壊ししずかに呟いた。シリウスが起き上がって埃を払う。

「あー、びっくりした」

「すっきりした」

「肉体が滅んでしまった」

「私もだ」

跡形もなくなった肉体にため息をつき、シリウスは腰に手をあてた。ついでに衣服も滅んでしまったので裸だが気にする素振りはなかった。

「肉体を創らなくても耐えきれる世界は此所と始まりの世界くらいだからな、面倒だ」

「我ら以外はあんなに脆いからな。このままだとあまり制御もきかぬし」

肉体とは、いわば制御装置である。肉体ではない、神体のままだとアルスに近づいただけで大概のものは跡形もなく滅び、シリウスは創造を速めすぎてやっぱり滅ぶ。
神体のままで、普段やっているレベルまで制御するのは、マジックハンドで針に糸を通すより難しかった。

「さっさと創造するか…」

シリウスが手を降った。ふわっと風が吹き抜け、まるで巻き戻しのように最高神の領域が復元されていく。とはいえ巻き戻したわけではないのでディテールは少し違った。
同時に肉体が戻り、制御されたのが解った。シリウスも衣服を着込み、髪をすいている。

「たまには運動もいいものだな」
アルスは続けた。

「破刃がこの間私と三回打ち合った」

「ほう。初めてだな」

「力加減をあやまって肩をへし折ってしまった。破刃には凄まじいダメージだっただろう」

「痛みがあるのだったか?」

「破刃はある。三羽烏はだいたい痛みを感じるはずだ」

そうか、とシリウスは呟いた。死なないシリウスたちに痛みは必要無く、外傷などで痛みは感じない。風邪なんかのときは頭痛は感じるが、それも肉体だからであって神体で痛みどころか寒さや暑さも感じることはない。

「三羽烏か」

「あれも、生ける者にかわりない」

アルスは足元の花を摘んだ。さら、と塵になる花を見つめる。

「あれも、此れと変わらぬ」

「長く生きると、永遠と勘違いするものだ」

シリウスは寝そべり、花を摘んではアルスに投げつけた。

「我らからすればたかだか数万生きただけの、雑草に過ぎぬがな」

「草むしりはせぬのか?」

「放っておいても、雑草はせいぜい大地を覆い尽くすだけ…雑草は大木にはなれぬ」

投げつけられた花を払い、アルスは腕を組んだ。

「悪趣味だな」

「お互い様だ」

シリウスはくすっと笑うとぽんっとボードゲームを取り出した。

「ヴァルがくれたのだ。レオニクスがくれたらしいが二つもあるから、と。してみようではないか」

「なんだそれは」

「チェス」

胡座をかいたアルスはチェス盤を覗き込み、駒をとった。シリウスもとり、じゃんけんで後手先手を決め、ふたりは人間たちの遊びに興じ始めた。





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