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黒の誓い
 10※





ぱちり、と眼を開ける。
ふかふかの寝台で、ぐちゃぐちゃになった着物とシーツに包まって腕の中ではゲオルトがすやすやと寝入っている。
一瞬で昨夜の記憶を呼び戻して、ジェズは胸の辺りがほわほわする感覚に襲われて起こさないようにきゅっとゲオルトを抱きこんだ。
朝陽はもうとっくに上っている。夜明けなんかじゃないので完全に寝坊だ。前までは誰にも知られないよう、夜明け前に寝室を後にしていた。長い間抱き合ってきたが一緒に朝を迎えたのは初めてだ。戦のときは陣営が一緒だったりしたこともあったがそれも地位があがれば無くなった。
こうやって抱きしめあって、恋人同士のような朝を迎えることが生きているうちに叶うなんて夢のようだ。
ジェズは硬い髪を愉しみながら抱きついてくるゲオルトの頭を撫でた。体術の師範なんて務めるほど戦闘に秀でた才能と厳つい外見のわりに軟派なゲオルトだが浮気はしないタイプである。

昔はW不倫だった。互いの妻には酷いことをしたと今更思う。けれど結婚するずっと前から密かに続いていた関係を打ち切るなどどちらにも出来なかった。

日に照らされた男らしい風貌。太い眉を普段よりやわらげ、安心しきった顔で寝入っているゲオルトの顔は正直、たるんでいて誰にも見せられるものじゃない。ジェズは小さく笑った。幼くさえ見える寝顔が可愛く愛おしい。精悍な顔立ち。とてもカッコいい。体中の傷だって愛おしくてたまらない。

このまま寝顔を見ていてもいいが、少しつまらなくなった。
ジェズは思案した後やっぱり起こすことに決めてゲオルトを揺さぶった。

「ゲオルト師。お目覚めになられませ」

声もかけてみる。
しかし、全く起きる気配が無い。
ジェズに抱きついたままより深い眠りに陥ったようだ。

「ゲオルト師…眠りから覚めなされ。御身が起きねばわしはつまらなくてなりませぬ。御身、御身」

揺さぶってみる。起きない。
焦れたジェズは手を叩いてみた。パンッ!と大きな音が響いたがゲオルトはぴくりともしなかった。

「まさか御身・・・なんという寝起きの悪さじゃ・・・」

ジェズは感嘆気味に言ったが、これは困った。
一緒に目覚めたことが無いのだから当然こんな悪癖は知らなかった。まさかこんなに寝起きが悪いとは思わなかったが起きない奴は起こしたくなるのが心理というものだ。どうにか起こしてやろうとジェズは奮起した。一種の遊びのように感じたのである。

まずは手始めに耳元で叫んでみる。つねってみる。殴ってみる。大きな音を出す。酷く揺さぶる。

――全敗だった。全くもって起きる気配はない。

では抜け出してみようとすれば、がっちりつかまれていてそれは叶わなかった。
痣が残るほど力を込められながらもそんな態度が愛おしくジェズはでれっとした笑みを浮かべる。

「なれば。――もう残るはこれしかあるまいのう」

戦士だからこそ通用する伝家の宝刀。
ジェズは息を吸い込み、口元に手を当てた。


「敵襲じゃーーー!!」

「どこじゃ!?」

がばっと凄まじい勢いで跳ね起きたゲオルトににっこりと微笑みかける。
寝起きで混乱しているのがぽかん?としている頬に手をあて、覗き込んだ。

「お早うございまする。どうしてもお目覚めになられぬので嘘をつき申しました。お許しくださりませ」

「ん?ああ、おう、お早う。何じゃ、己を起こしたかったのか」

「ひとり寝顔を拝見させていただくのもよろしゅうござりましたが、せっかく初めて二人で迎える朝でございます。御身と共に過ごしたいと、少しばかり我儘を通しました」

「それもそうじゃ。己も無粋な男よ。よう起こしてくれた。このよき朝に敵襲とはどこの輩かと本気で恨むとこじゃった」

「本当に敵襲ならば御身のお手を煩わせるまでもありませぬ。わしとて頭脳だけではござりませぬゆえ」

にっこりと笑ったジェズの手をとり照れくさそうに頬をかいたゲオルトはシーツの上に放り投げられていた着物を取り上げ、ジェズの肩に着せた。

「そちの裸体は眼に毒じゃ。致したくなってしまう前に着てくれぬか。この邪な眼から隠しておくれ」

流れる絹のごとき黒髪から見え隠れする肌。そこに残る昨夜の情交の痕に熱が灯されそうになる。
まだまだ己も若い、と苦笑しながらゲオルトは眼をそらした。衣擦れの音がして「ようござります」とジェズの声がする。
同時にふわりと上着を羽織らせられてゲオルトは首をひねってジェズを見た。
着物をそれなりに着付けたジェズは袖で口を隠しながら言った。

「わしとて雄でございます。御身のお体をそう晒されてはかき抱きたくなるというもの。昨夜の御身のお美しさと淫らな様がこの脳に焼き付いておりまする。お恥ずかしや…不埒な真似を致す前にどうぞ、お隠しになってくださいまし」

「己の身体を見てそう思うのはそちくらいじゃ。そちが望むのならこの肉体、好きなようにすればよい。己はそれで構わぬ」

「そのような意地悪いことを申されますな。劣情に身を任せ、獣に戻って御身のお体を貪るわしのあさましき姿など白日のもとで御身に晒した日には恥で死んでしまいまする」

ですからお早く、と急かすジェズの腕を取り、ゲオルトは口づけた。
黒髪に黒い瞳、最も黒竜族らしい風貌の逞しい男が誘うように腕を身体に回させる。
キスは深くはならず、唇を離したゲオルトは目を細める。

「共に朝を迎え、たれにも憚らずにこうして好き合えるのじゃ。気が乗らぬなら無理強いはせぬがもうそのように心と欲に枷を嵌めずとも良い。好きに致せ。求めるのはあさましきことじゃないのじゃ。己とて獣のごとくそちを求めた。そちとて昨夜はこの身を愛しみ、精をくれた。夜だけに限った遊戯だとでも申すか」

「嗚呼、嗚呼、ゲオルト師。わしを甘やかしてはなりませぬ。そのお言葉だけでわしは嬉しゅうござります。まるで天にも昇る心地でございます。なれども御身。わしは御身が愛しくてなりませんのじゃ。いまこの劣情をお許しになれば、今後もあさましきわしは求めてしまいまする。どうかお早く、お隠しになってくださりまし」

抱いて抱かれた身体は色香を放っている。
触れている肌から燃えてしまいそうなほど熱が伝わる。
昨夜の記憶が蘇って不埒な熱が灯ってしまいそうになった。ジェズは眼を瞑ってしまった。

「強情な奴じゃ。己が好きに致せと、してくれと請うておるのに。いやはや恋とは難しきものじゃ」

体温が離れていく。
ほっとした反面寂しいような惜しいような心地を味わいながらジェズは眼をあけた。そして眼を見張った。信じられない光景が飛び込んできて魔界史上最も優秀と言われる頭脳が完全に停止してしまった。
裸体におざなりに艶やかなジェズの着物を着たゲオルトが寝転がっていた。程よくはだけられた裾から除く太ももやふくらはぎ。大きく開いた胸元からは鍛え上げられた肉体が見えていてジェズがつけた赤い痕が見え隠れしていた。着物など、滅多に着ないゲオルト。帯びはほどけかかっており、じりじりと這ってきたゲオルトはジェズの膝に肩から上を乗せて誘うように微笑んだ。

――これで堕ちない焦がれる雄はいるだろうか。いやいない。

ジェズは抗えずに手を伸ばした。

「悪いお方…どこでこのような手を身に付けなされたのじゃ…」

「何、そちの真似をしただけよ。この遊戯、己の勝ちじゃ」

「負け申し上げました。御身には敵いませぬなぁ。嗚呼、甘やかしてはなりませぬと申しましたのに」

「己ばかり甘やかされてものう。そちの雄くさい顔、己は好きじゃ。抱かれている顔もよい。己を抱く顔もよい。おう、そちの顔で嫌いな顔なぞ考えてみれば無かったわ」

「お恥ずかしいお方じゃ…わしの心が打ち震えておりまする。御身のお心もお言葉もわしには身に余るものとはいえ、手放すことなぞ到底出来そうもありませぬ。御身に微笑みかけられただけで、わしは年甲斐もなく硬く致しました」

「恥ずかしいのはどちらじゃ。くく、愛しい奴よ」

押し付けられた象徴は硬く、ゲオルトは密かに笑った。
年甲斐もないのは己もだと心の中で思う。この年齢になって雄を誘うことになるとは、と苦笑を禁じえない。
だが隠せ隠せと言い、袖で顔を覆うジェズを見たとき我慢しきれないくらい欲情した。
可愛く見えた。ジェズが心の奥底で望んでいることをしてやりたいと思った。この幸福を分かち合うのに手っ取り早いのは肌を合わせることだ。
もう押し殺さなくていいのだと。臆病で慎重な、この恋を。

「寝ていてくだされ。わしが何でも致します。やらせてくださいまし」

「分かった、好きに致せ」

胸元に忍び込む手。乳首をこねくりまわされればじんとした快楽が啄ばんでいった。
足を開かされて間にジェズが身体をねじこむ。アナルにもう片方の指をいれてみればすんなりと入った。
排泄をしない魔界の者たちはアナルも立派な性器である。ペニスは射精のためにあるし、雄同士のカップルや性交が多い魔界の雄のアナルは最初から“そのため”にあると言っても過言ではなかった。
かといって雌のように潤滑液が出るというわけではなく、感度がいいだけである。

昨晩の残滓がぐちゅり、と指に絡みつく。
抱えた足に力が入ったのを見てジェズは指を増やした。

「痛くはありませぬか」

「大丈夫じゃ…」

はぁ、と荒く息を吐きながらゲオルトは言った。
頷き、ジェズは愛撫を続ける。ジェズの長い黒髪がかかってくすぐったい。
開け放ったカーテンから日の光が部屋に差し込み、明るい中でこんな淫靡な遊戯をしているのだと羞恥を煽った。
おそらく空気を読んでいる執事以下召使たちは呼ぶまで近づきすらしないから急にドアを開けられる心配は無い。
気もそぞろなのが分かったのかジェズががぶり、と乳首にかじりついた。

「んっ!」

「わしを感じてくださいませ。わしの我儘を叶えてくださりませ御身」

「おう、すまぬ。つまらぬわけではないのじゃ。拗ねないでおくれ」

ジェズは表情を和らげると再び孔に集中した。
感じるポイントを探り当てて指を増やす。大きく硬くなるゲオルトの雄をいとしそうに舐めあげた。

「く、あぁっ」

敏感な部分への愛撫は直接快楽へ繋がる。
ずくんっと腰に響いたそれにゲオルトは背を反らした。帯が引き抜かれ、着物から腕が抜かれる。
雄竜の中でも郡を抜いて雄らしい己をよく抱くと思う。

「じぇ、ず」

「何で御座いましょう」

「呼んだだけじゃ…んんっ」

卑猥な音を立ててかき混ぜられる体内に息を詰める。呼んだだけだと悪戯が成功したわっぱのように微笑まれてジェズの雄はいたいほどに張り詰めていた。
天を向くゲオルトの雄に指をからめる。これがジェズの体内を抉ることも多いのだ。他の雄のものなど突き出されても排他するだけだがゲオルトのものは違う。愛しくてたまらず、零れている先走りを茎に塗りつけた。

「っつ、ぁっ、執拗、にする、でない」

「達したくば達せられませ。甘美なる御身の蜜をどうか、このわしにくださいまし」

「んぁぁっ!」

ぐしゅぐしゅと容赦なくすりたてる。同時に胎内の感じるところも指で潰せばゲオルトはシーツを握り締めて果てた。
パタパタと飛ぶ白濁を舌で舐め取ったジェズはうっそりと微笑んだ。

「おうおう。どんな美酒も勝らぬ美味でございます。わしの脳髄が狂おしいほどに蕩ける、この世で唯一のものでござりますな」

「はぁ…はぁ…そちはまた…」

「お許しくだされ。ほんに、お美しいお姿。わしの眼はこのためにあったのではと思うことも多いので御座います。愛しきお方、わしはとうに狂い果てておりまする。御身のためならば星隠れとて探します。御身が望むなら、この身全て捧げたいと何度思ったことでしょう。以前は叶わなかったその願い、今生で叶うというのです、御身のものを愛しみその蜜を味わうくらいお許しくだされ」

ガチガチになり天をむくジェズの逞しいものに眼をやり、ゲオルトはジェズの顔に手を伸ばした。

「好きに致せと申したのは己じゃ。狂い果てしは何もそちだけではあるまいよ。何度でも味わうが良い、おお、ジェズよ、己は焦がれてたまらぬ。疼いて疼いてそちが欲しい。それをおくれ。己を獣の如く求めておくれ」

ジェズが息を呑んだのが分かった。足を抱えなおされて入り口を熱いもので突かれると迎え入れるようにひくついた。
ぐぷ…と侵入が始まる。息を吐きながら受け入れるゲオルトと呼吸を合わせて一気に挿し込む。割り開かれた肉筒は昨夜の名残を残していて柔軟にジェズを受け入れた。

「あぁっ…ぐっ」

「ゲオルト師…」

ジェズは名を囁きゆるゆると腰を動かした。抜き差しのたびに収縮し逃がすまいと食らいついてくるアナルが気持ちいい。同時に黒竜族の勇とまで称されるゲオルトが自分に身体を開いてくれる優越感と歓喜が身体を満たした。
焦らすことはせずに動き出す。ゲオルトの感じる場所を丁寧に攻め立てれば雄から蜜を零して喜んだ。足を腰に絡めてくるゲオルトに応え、身体を寄せる。腕が首と背中に回ったのでジェズも腕を回してその身体を支えた。

ずっ、ずっと胎内を抉る熱に先ほどまでの余裕など霧散した。
まともに言葉すら紡げない。目の前の雄に縋り、重なった部分から分かち合う熱に身を任せた。

獣に戻って本能と欲のままの情交。
激しくなる抜き差しにあがる嬌声。ぎり、と立てた爪は着物越しにもジェズに傷をつけた。

「ああああっ!ぐぁっ、あうっ」

「はっ、はっ、ゲ、オルト…師…!」

突き上げる。ジェズの腹でこすれたゲオルトのものが果てるのに時間はかからなかった。白濁を散らし、ぎゅうっとしめつける。
今にも気をやりそうなゲオルトを抱きしめ、ジェズは動きを早めた。

「あ…っ、あぁ、・・・じぇ、ず」

肉体がぶつかる音がする。
ジェズの顎を汗が伝う。揺さぶられながらゲオルトは喘ぐ。

「ゲオルト・・・!!」

どちらからともなく手を繋いだ。
ぎゅっと握り締めて胎内でジェズの雄が爆ぜる。叩きつけられる熱い奔流を感じてゲオルトは充足感に息を吐いた。
びくつく腰から雄を引き抜いたジェズは脱力してゲオルトに覆いかぶさるように抱きしめる。

「は、ぁっ…このように、明るい中で…よう見えました」

「ばか」

「酷いお方…。実に甘露なる時でござりましたというのに」

「ふふ…許せ…。おう腰が立たぬ。湯殿へ連れて行っておくれ」

「承知いたしておりまする」

ジェズは頷いたものの、繋いだ手を離すのが惜しく、ゲオルトに抱きついたままだった。

「今朝のジェズはことさら愛いのう。気が済んだら湯殿へ連れていけよ」

「――申し訳ございませぬ。なれども今しばらく…このジェズの我儘をお許しください」


あと、もう少しだけ。
このままで。

その願いを聞き入れたゲオルトは小さく微笑んでジェズの頭を撫でてやった。
晴れ渡る快晴。空の向こうではゲオルトたちの教え子たちが魔界を背負って立っているのだろう。
見つめる青空を、白い鷲が飛んで行った。







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あきゅろす。
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