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黒の誓い
 6

レイトをひとりの青年が走り抜けていった。
金髪を振り乱し、疾走していた彼は路地裏に駆け込み、ズルズルと座り込んだ。


「はぁはぁっ」

荒い息をつき、立てた膝に頭を埋める。

「レオニクス……」


親友の名を呟き、青年はぐっと強く服をにぎりしめた。
レオニクスの隣にいた黒髪の男。
あの濃く深い闇の魔力は人のものではない。
そしてそれは青年にとって最悪の結果でしかなかった。

青年は空をあおいだ。
澄んだ青空には、帯状のものが二つ浮かんでいる。
それは羅針帯(クロスクロノス)と呼ばれる、魔力を制御する巨大な装置だった。
羅針帯とボルケナは繋がっていてクロノスの魔力を制御している。

誰がそれを設置したのかいつからあったのかは定かではない。

テミスの時代にはすでにあった。

羅針帯を使ったのはテミスが最後だ。
彼は羅針帯を使うための術式を封印してしまった。それ以来、誰ひとり術式を見つけも開発も出来ていない。


「…シオン、ね」

この空に最も似つかわしくない男。
レオニクスに絡み付くような魔力。

絶え間無く襲いくる魔力に耐え切れなくて逃げてきた。
いまだにカタカタと震える、手が証拠だ。

「…はっ」

青年が自嘲の笑みを漏らしたとき一羽の鳩が飛んできた。

鳩にくくりつけられた手紙を読んだ青年はゆっくりと立ち上がり、再び歩き出した。



□■□■





レオニクスはヴァルディスを伴ってアパートに戻っていた。
武器を持って来させたらしく取りに戻ったのだ。


用事があるらしいヴァルディスは置いてレオニクスは家に入った。

ハレスがいるのか明かりがついている。
レオニクスは大して気にせずリビングへ続く扉を開き……固まった。



「おぬし、何者」


(いや、あなたが誰ですか)

喉元に突き付けられた、研ぎ澄まされた切っ先。
少し動けばそのまま首をかっきられるだろうその状況でとりあえずツッコミをいれたレオニクスは侵入者を恐る恐る見た。


赤い長髪を束ね、赤い瞳を鋭く光らせた美形。
東洋のような衣服、突き付けられた日本刀。

全く見覚えがなかった。

だいたいこんな美形ばかり知り合いはいない。


人間とは思えない魔力。

これはやはり、レオニクスの考えは正解かもしれなかった。

「俺はここの家主で」

「何をしているレオ」


後ろからかかった救いの声にレオニクスは脱力した。
しかしレオニクスが振り返る前に侵入者の目が見開かれみるみる涙がたまったものだからレオニクスは振り返るタイミングを失った。


「ヴァルディス様…」

「ん?」

小さくヴァルディスの名前を呟き、侵入者はふらふらと後ずさった。

殺されそうな状況を脱したレオニクスは一応距離を取りながらリビングに入った。
ハレスはいないようで食卓には何もなく、テーブルにいくつか剣が置いてあった。
どうやら侵入者は使者らしい。

現に今もヴァルディスが懐かしむように目を細めていた。


侵入者はヴァルディスと目が合った瞬間、膝を折り床にひざまずいた。

ぼたぼたと涙を零し、彼は言った。


「よくぞお目覚めになられました。四千年、ずっとお待ち申し上げておりましたヴァルディス様!」


耐え切れなくなったのか侵入者は床に手をつき鳴咽を漏らした。

「久しぶりだな、よく待っていてくれた」


「−−ヴァルディス様っ」


そう言って泣き続ける侵入者をレオニクスは見つめるしか出来なかった。






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あきゅろす。
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