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黒の誓い
 5

レオニクスが入った店は温かみのある店で、昼ごはんには遅い時間帯にも関わらず盛況だった。

昼間にシチューなど食べる気にはなれずヴァルディスは簡単なサンドイッチを頼んだ。
目の前ではレオニクスがはふはふとシチューを平らげている。

なぜかこの店、シチューは注文した直後に出されていた。


「お前、よく昼間にそんなもの食べられるな」

「そっちこそステーキとか食べそうなんだが、サンドイッチってギャップ?新手の政策?」


意味不明なことを言いつつレオニクスはパンをとった。
ヴァルディスはでてきたサンドイッチを優雅に咀嚼する。

「少食?」

「人間の時はな。元の姿でも食べなくても何にもならん」

「竜ってそうなのか?」

「黒竜がそうなのだ。神格化した種族であるし神の血も引く。まあたべるに越したことはないが」


それきり会話もなくなり、二人は食べることに専念した。

あらかた食べ終わったころ、レオニクスが「あ」と声をあげた。
ヴァルディスの向こうを凝視している様子にヴァルディスも振り返る。

先にはレオニクスと同じ服を着た、金髪の青年がいた。


「ジオク…」

「ジオク?」

レオニクスは答えなかった。
しばらく逡巡した後立ち上がった。

青年へ近づき、肩を叩く。
振り向いた青年はレオニクスを認めると目を見開き、一瞬のちにがばっと抱きすくめた。

「レオニクスー!!」

「おわっ」

勢いによろめいたレオニクスはそれでも踏ん張り、青年を支えた。

「ジオク」

「心配したんだぞ!!ボルケナに許可証なしで行かされたって聞いたときはマジで葬式に出る羽目になるかと・・」

ジオクは大きな目をまだ大きくしてレオニクスに抱きついていた。
金髪碧眼、まさに天使のような顔立ちの彼を店内でもチラチラと見る男女が多い。そんな中、抱き合う二人は目立ちまくっていた。
おまけにジオクは今にも泣きそうである。

ヴァルディスは呆れたような目線を投げかけると立ち上がり、近づいていった。

ちなみにヴァルディスも超絶美形なので余計に目立つ、という自覚はこの竜にはない。

「いいから座れ」

「あ、ごめん」

「?誰?この人」

ジオクは見覚えのない美形に首をかしげた。
ヴァルディスは興味がなさそうにジオクを見さえしなかった。
レオニクスは笑って説明した。

「ジオク、この人は俺を助けてくれた人だ。シオンさんって言うんだ。シオンさん、こいつは俺の親友でジオク。こんな顔だけど俺と同じ年だから」

「へー。よろしくーシオンさん」

「・・」

ジオクの挨拶に目もくれず、ヴァルディスは席に戻った。
レオニクスは苦笑し、ジオクは頬を膨らませた。

「感じ悪っ」

「まあまあいい人なんだよ、あれでも。ジオク、食べない?」

「食べる!」

ジオクを席に着かせ、自分も座ったレオニクスにヴァルディスの視線が突き刺さった。

(・・シオンって誰だ)
(ゴメン・・。ヴァルディスなんて言ったら速攻バレるから)
(ベルシオンから取っただろうお前)
(・・ははは)

ヴァルディスが不機嫌になったがレオニクスはそこまで気にとめなかった。
ヴァルディスが本気で怒れば、呼吸困難になるくらい魔力が襲ってくるのに眉をひそめているだけだからだ。


「決まった?ジオク」

「うーん・・これにしよっかな・・あ、ちょっと待って」

ジオクは電話を取り、二つ三つ話した後申し訳なさそうに頭をさげた。

「ゴメンね、戻らなきゃ」

「え?もう?分かったよ、頑張って」

「うん、ゴメンね!!」

ジオクは立ち上がり、パタパタと店を出て行った。
その後姿を見送ったヴァルディスが口を開いた。

「レオ」

「ああ」

スッと差し出された右手には、薄いチップが挟まれていた。

「盗聴器、だな」

「電話も嘘だ。会話などなかった」

レオニクスは顔を曇らせて頷いた。

「裏切り、か」

「・・これが協会のやり方だ。時間がないみたいだ、ヴィー」

「うむ」

親友に裏切られたことが哀しいのか、顔を曇らせたままのレオニクスの頬に暖かいものが触れた。
顔を上げると、それはヴァルディスの手だった。

「ヴィー?」

「・・哀しむな。お前には俺がいる」

ヴァルディスは無表情でそう言った。
レオニクスは盗聴器を握り締め、かすかに頷いた。

「そうだな・・」

ぐしゃり、と盗聴器が手の中で潰れる音がした。







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あきゅろす。
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