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黒の誓い
 4



「あ」


礼拝堂の姿を視界に捕らえられる距離まできてレオニクスが立ち止まった。

つられてヴァルディスも立ち止まる。

しかしすぐに人々が盛んに行き交う大通りのど真ん中で立ち止まったレオニクスを引っ張り、端に寄った。
されるがままだったレオニクスはヴァルディスを見上げ、しまった、とでもいいたげに眉を寄せた。


「ヴァルディス、俺の剣、どうなった?」


家でも見かけなかった。
余りにもイレギュラーなことが続いたせいですっかり忘れていたのだ。


「ああ。お前アレ魔剣だっただろう。俺の魔力に飲み込まれ霧散したと思うが」

レオニクスはがっくりとうなだれた。
魔剣。魔力により作られ、魔力の伝導がしやすい剣だが圧倒的な魔力に巻き込まれると霧散してしまう欠点がある。
だがそれはあくまでも圧倒的、な魔力の場合なわけで。
レオニクスの剣はアイレディア王国最新の魔剣でボルケナが爆発しても耐えられる魔剣だったのだ。
即ち、ヴァルディスの召喚時の魔力がそれ以上だったのだ。


「とんでもない竜と契約した気がする」

「今更」


だが嘆いても武器はない事実に変わりはない。
今の状況で丸腰で動き回ることはあまりに危険だった。
しかし、装備をそろえられるだけのお金もない。

「どうしようか、ヴィー」

「剣が必要なのか」

「そう」

「二本?」

「全力を出すには、だが。一本でも大丈夫」

ヴァルディスは少し考え、頷いた。

「剣か。俺のでよければ使え」

「え?ヴィー剣持ってたのか!?」

「人の姿で戦うこともあるからな。剣くらいはある。そうと決まれば一度家に帰るぞ。ハレスに持ってこさせよう」

「それで戦う・・」

レオニクスの脳裏に、剣を携え戦うヴァルディスがよぎった。
―――似合ってる・・・・。


「どうした」

「へ?い、いや!何でもない!全然ない!」

慌てるレオニクスを不審そうに見ながらもヴァルディスはそれ以上追求しなかった。
くるっと踵を返したところで顔を上げる。

「腹、減らないか?」

「あ、そういえば」

昨日から何も食べていなかった。
ブラックの店は食べ物なんてなく、色々あったせいで食欲を忘れていた。
自覚したらいきなり主張しだす胃に呆れながらレオニクスは頷いた。

「食べて帰る?」

「そうだな」

ハレスに言えば作るだろうが、残念、家に食べ物はない。
どうせ買出しに行かなければならないのだから、食べて帰っても同じなのだ。

「あ、大丈夫。二人分奢るくらいのお金はあるから」

「金?それならハレスが用意してたぞ。俺の財産を少しだけ換金したらしい。少ない、と謝ってるのを宥めるのが大変だった」

だが俺に価値は分からん、とヴァルディスが懐から財布を差し出した。

(ぶ、分厚い・・!)

受け取ったレオニクスはその分厚さに驚きながら財布を開き・・すぐに閉じた。

「ん?どうしたレオニクス」

「・・ハレスさんが少ないって謝ってたって?」

「ああ。やはり少ないか?まぁたったあれだけでは暮らせるとも思えんがな」


「−−俺の給料半年分だよっ!!」


入っていた紙幣とコインの量は軽く見てもレオニクスの給料半年分はあった。
言っておくが、レオニクスはそれなりの給料は得ている。
とにかくそれを少ないといわれるのはちょっといただけなかった。

「どこが少ないって!?非常識コンビがぁあああ!!」

「何を怒っている」

「怒るわー!常識を知れ常識をぉおおおお!!」

さすが王族。
やっぱりというかなんというかヴァルディスの財産の感覚はおかしかった。
今も全く理解できなさそうな顔だ。

「いいか!?普通は一ヶ月働いて働いて働きまくって大体10万ガドルなんだよ!それが何だこれ!?普通に見ただけでも70万ガドルはあるだろ!少ないわけあるかあああ!金は大事にしろ!なくてはこまるがあって困るものじゃない!そして大金は一箇所に集めて持ち歩かない!落としたらどうするつもりだよ!俺が這いずり回ってでも探し出してやるわ馬鹿ーー!!」

「そんなに怒るな・・不快にさせたなら謝ってやるから」

「謝ってやるって・・はぁ」

レオニクスはため息をついた。
確かにヴァルディスを責めたって仕方がない。
それに多分自分は召喚師協会をクビになるからしばらくは助かる。

魔物でも倒して稼ぐつもりではあるのだが、この半年分は有り難く使わせていただこう。

怒鳴り散らしたらすっきりしたレオニクスはにこっと笑った。


「じゃ、食べに行こうか」

「何だ怒ってないのか」

「もう怒ってない。というか、お金用意してくれたのに怒って悪かった」

「ハレスが用意していたがどうせお前にやろうと思っていたものだ。構わん、好きに使え」

いちいち上から目線だが、もう慣れてしまったレオニクスは頷くにとどめた。
下手に出てヘコヘコしているヴァルディスなど考えるのもいやだ。

「何食べたい?」

「そうだな、好きなものを喰え」

「そればっかだな・・。じゃ、シチューでも」

あそこがおいしいんだーっとレオニクスはヴァルディスを引っ張っていった。






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