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黒の誓い
 3




「そういえば変態。貴様何故俺の名前を知っていた」

着替えたブラックにヴァルディスが尋ねた。
ブラックはひとしきり「なんやねんその美声!あぁんもぉやられてまうわ〜」と騒ぎ、ヴァルディスに殺気をあてられた後不意にニヤリと笑った。

「僕に分からん情報はないで。見慣れないこんな美人さんおったら調べるに決まってるやろ」

「ほぅ。貴様見かけによらず凄腕のようだ」

「ブラックはすごいぜヴィー。ブラックに聞けば大概分かる」

ヴァルディスの情報は黒竜族と魔界が総力で隠蔽している。
その隙間をかい潜りこの短時間で名前を調べたのは驚嘆に値した。
レオニクスの言葉通り、ブラックは凄いらしい。


「それにしても、本部の研究施設やと?またえらいのに手出すなあレオたん」

「だろうな」

「ほしいんは地図と主要研究員ってとこか?レオたん」

ブラックにレオニクスは頷いた。

「そか。レオたんが動くんやな。それじゃあ今から教えるからよう聞いとき」


ブラックはウヒヒと笑いながら紅茶を飲み、話し出した。


「本部の地下に研究施設はあるで。出入り口は二つ、本部から続く道と非常口や」

「非常口…」

「見張りはつねに三人おって非常口も見張られとる」


「潜入は厳しいな」

「せやなあ。レオたんなら非常口の三人倒して入るのが確実やな」

「その非常口とはどこにあるんだ?」


ヴァルディスの質問にブラックはちょいちょいと後ろを指差し、にんまりと口をゆがめた。


ブラックの後ろの窓から覗くのは天高く延びる、礼拝堂だった。


「…礼拝堂」

「礼拝堂には大切なテミスの遺品があるっつう名目でつねに三人見張りがおる。だけんど実態は非常口のために礼拝堂が建てられたんや」

「…浅ましい」


レオニクスが吐き捨てた。
人々の純粋な信仰を侮辱し汚す行為は許しがたい。
人々は礼拝堂に祈りを捧げに足しげく通っている。
彼等は礼拝堂に神を見出だし天竜の加護とテミスの慈悲を戴くのだ。

それがまやかしだろうが妄想であろうが信じていれば真実以外の何物でもなくなる。

その想いを、この街の上層部は汚しているのだ。


「許せないかレオ」

静かなヴァルディスの声にレオニクスは顔をあげた。
問うているようで、諭すような声音。

「人とは解らぬ」

「え?」

「解せぬな…信仰とは何だレオ。ヘリオスはまだ解るが姿もみたことのない神を何故信じる」

「僕も知らんわ」


レオニクスの視線を受け、ブラックは首を横にふった。
ヴァルディスが信じられないのも解る気がする、とレオニクスは思った。
いるかどうかすら分からない神を何故信じるのか。

ヴァルディスたちはもちろん神に縋ることもなかっただろうしブラックやヴァルディスは超現実主義だ。

目に見えることが全てなのだ。


「見えないから信じるんだ」

だが。
だが、大多数の人間はどうだろうか。
現実を受け入れられず逃げたり後ろ盾が欲しかったりする人が多いのだ。
その際、いるかどうかも分からない存在ならばいいように作れる。
思う存分美化できる。


「導いてくれたり、良くないことの言い訳になってくれたりそんな存在が欲しいんだ」

そして大多数の人間が納得するような存在。
それを人々は神と呼んでいるのだ。

「ふむ。…本物の神などろくでなしだがな」


「は?え?神っているのか!?」

「ああいる。まあくたばってるかも解らぬがな」


あっさりとヴァルディスは認めた。
神は昔、まだヴァルディスが封印される前クロノスに来た。
もう四千年前だから今はクロノスにはいないらしいが居場所も解るらしい。


「へえ」

「ただろくでなしだ」


「あのー情報いらないんどすかー?」


ブラックのことをすっかり忘れていたレオニクスは慌てて向き直った。
今はブラックの情報が優先されるべきなのだ。

ついうっかり忘れていた。


「まあええわ。非常口は礼拝堂の中にあるらしいわ。後は自分で調べてくれや。ちなみに非常口は直通やから心配いらんで」


「成る程」

「研究員は全部で三十人。責任者はケイルって女や」


「データとかは?」

「何度試しても見つからんから一カ所にまとめてあると思うで。あとレオたんは国はからんどらん言ってたけど絡んどるで」


ブラックはカウンターの砂糖に手をのばすと一つつまみあげ、ぽちゃんと紅茶に落とした。


「僕が入れんデータベースいうたら情報都市のメインサーバーくらいなもんや。そしてアレに保存管理するなら国の認可がいる」


甘ったるい紅茶を飲み、指を叩いてブラックは淡々と言った。

「やばいことかもしれへんで」

「案ずるな」

肘をつき、足を組んだヴァルディスが静かに言った。
レオニクスに向けられた視線には自信と意志が満ちていた。


「この世界に俺にかなう者はおらぬ。故にお前はお前の望むまま進め」

「……分かってるよ、ヴィー」


レオニクスは立ち上がった。
ヴァルディスも腰をあげる。


「じゃあなブラック。助かった」

「次はヤらせてなヴァルディスたん。頑張るんやでレオたーん」

カウンターの暗がりで手を振るブラックに笑みを返したレオニクスはヴァルディスの腕をとった。


「まずは礼拝堂へ行く?」

「お前一度本部へ行かなくていいのか」

「取り押さえられない保障はないからね」

「そうか」








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あきゅろす。
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