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黒の誓い
 2

路地裏は変わらず薄暗かった。
捜すもののヴァルディスはアティナの外見を知らない。実質レオニクスだけが捜しているようなものだった。

しかし一時間が経ち、二時間が経ち、レオニクスは首を傾げた。

「いないのか」

「おかしいがいない」


レイトをぐるぐる回ったが見つからなかった。
レオニクスいわくどこにでもいるらしい。
それがいないのだからレオニクスが首を傾げたのも頷ける話だった。

だがアティナが頼みの綱だったのも事実であり、レオニクスは困り果てていた。


「アティナの情報は信頼できるんだがいないか」

「アティナなんかやめときや」



レオニクスが頬に手を当てたとき、後ろからエセ方言がかかった。
驚いて振り返るとそこにはフードを被った男がヴァルディスに首根っこを掴まれプラプラしていた。
その男には嫌というほど見覚えがあった。

「ブラック」

「お久しゅうレオたん。どーでもええけどこの竜ちゃんに言って離してもろうてや。僕なんにもしてへんってオイ!振り回すなや!」



ブラック。アティナを上回る情報屋だが神出鬼没でおまけに気に入った客にしか教えない、エセ方言の男である。
フードを被っているため顔は分からない。


「俺達を付け回していただろう。それと貴様に馴れ馴れしく呼ばれる筋合いはない。訂正しろ」


ヴァルディスは片手でブラックを掴んだままそう言い聞かせた。

とは言ってもギリギリと首を締め付けているからそれは脅しに外ならなかったが。


「いややぁー僕死んじゃう〜レオたん助けてや!しぬならこの美人さん一発ヤってからや!めっちゃ好みなんやでもう見るだけでゾクゾクするわ〜あでっ!」


ヴァルディスが手を離したせいでブラックは地面に激突した。
鼻をさすりながらブラックはヴァルディスに笑いかける。


「失せろ」

「本当に今のは俺も驚いた。でも駄目。ヴィーも嫌がってるし。ていうかアンタがいるからアティナいなかったんだな」


「せや!あないな素人、僕の領域に入れるの我慢ならんねん。それで?何か頼みたいんか?」

「店、今はどこ?」

「こっちや。何やヴァルディスたん、そないな距離とらんでも僕とイイコトしまへゲフォ!」


ヴァルディスの右ストレートが綺麗にきまり、ブラックは道の向こうまで飛ばされた。
放物線を描いて吹っ飛んだブラックにレオニクスが慌ててヴァルディスを見れば竜はしれっと一言。

「殺してはない」


レオニクスは何も反論しなかった。



□■□■



復活したブラックに連れられ、二人はいかにも怪しいお香の店に入った。
奥のカウンターにブラックが座り、二人も後に続く。


「何が知りたいんや」

「本部にある研究施設について」

ブラックはしばらく思案していたがちらっとレオニクスを見て笑った。


「アレがないとやれんなあ」

「あー…」

「アレ?」


袖の中に手を突っ込み相変わらずニヤニヤ笑うブラックにレオニクスが何ともいえぬため息をついた。
ヴァルディスが不思議そうに聞く。

「快楽や快楽!この世でだれもが無意識に求めとるもんや。笑いでも苦痛すぎて快楽でも何でもええ。快楽をくれやぁ」

ウヒヒと笑うブラックにレオニクスは困り顔だった。


「何ならレオたんかヴァルディスたんとヤらせてくれてもええでー。ヴァルディスたんとかもうどんな情報でもあげたくなるわウヒヒ」


ブラックは想像したのか恍惚の表情を浮かべていた。

「貴様…」

「落ち着いてヴィー!」

「俺を侮辱するのも大概にしろ!」


レオニクスの制止も虚しくヴァルディスはブラックを引き倒すとその腹に足を乗せにらみつけた。
魔力が吹き出し相当キレていることをうかがわせた。

「貴様のごとき下等生物が俺にふれるなど言語道断。潰すぞ」


触れれば斬られそうな様子にレオニクスは傍観を決め込んでいた。


「分かったならさっさと吐け」

力がこもったのかぐえっとブラックが呻く。
もういいと判断したのか離れようとしたヴァルディスの足をがしっとブラックは掴んだ。


「貴様!」

「…え」


「何?」


俯き震えるブラックが呟いたことを聞き返したヴァルディスの足に突然ブラックがしがみついた。
驚き蹴られても離さない。
ばっとあげられた顔は恍惚としていた。


「ええ!ええわ!その男らしさ、女王な気質、見下す目、殺されそうや!その目と殺気だけで僕イけるで!なんちゅう快楽……だめやヴァルディスたんがユートピアや!」


ハァハァするブラックが本気で気持ち悪かったのかヴァルディスは足にしがみつくブラックを地面にたたきつけ、店の外からぶんなげた。


「やーらーせーてーやーあー」


と叫びながら星になったブラックを見てヴァルディスは言った。

「殺していいか」

「駄目」


その後なぜかズタボロになったブラックが戻ってきたのは翌日のことだった。



「ボルケナに落とすことないやろ!ヴァルディスたんの鬼畜ぅ!」














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