黒の誓い
1
吹き抜ける風にヴァルディスは目を細めた。
さらりと前髪が流れ、頬を撫でる。
「どうするレオニクス」
「そうだな・・。まず、ヴァルディス、呼びにくくないか?愛称で呼んでも?」
「愛称?王とか陛下とかか?」
「いやそれ敬称。そうじゃなくてヴィーとか」
「ふむ。構わんぞ」
大真面目に頷くヴァルディスにレオニクスは思わず噴出した。
そりゃ、誰もヴァルディスを愛称なんかで呼ばなかっただろう。そんな命知らずがいるとも思えない。
笑うレオニクスを憮然と睨みつけたヴァルディスはぼそりと呟いた。
「レオ」
「え?」
驚いて笑いを止めたレオニクスにヴァルディスはしてやったりと口角をあげた。
「俺も愛称で呼んでやっただけだ」
「・・」
そんなキャラだったのか。
レオニクスの正直な感想だったが賢明にも言わなかった。
しばらくにやにやしていたヴァルディスだったが、ふと思い出したようにレイトに視線を移した。
「それで?どうするつもりだ」
「あーそうだったな」
レオニクスもぽりぽりと頭を掻き、同じように視線を移す。
相変わらず美しいレイトを見るその瞳は何の感情もなかった。
「・・研究をやめさせないと」
「キメラ研究、まだ続いているのか?」
「ああ」
研究施設は本部の最奥にある。
研究施設といっても正規の施設は別の町に本格的なものがあるのだがキメラ研究をおおっぴらにするわけにも行かず、上層部が本部最奥に極秘に作ったのだ。
「データも何もかも、壊したい」
「それが望みなら」
しかし研究施設を壊すと言っても、それは召喚師協会を敵にまわすのと同義だ。
「厄介な人が多いな」
「壊すだけか?研究員は?」
「生かしとくよ。正し研究を続けたら殺すけど」
レオニクスは思案げに顎に手を当てた。
「正面突破か・・それともまずは話し合いか」
「話し合いが通じる相手か?」
「いや全然」
呆れるヴァルディスにレオニクスは弁解の眼差しを向けた。
「いや選択肢のひとつだろ」
「可能性がないことは選択肢に入れるな。邪魔だ」
「確かに」
レオニクスはじゃあ、と手をあげた。
「じゃあ、潜入する?」
「潜入って。正面から堂々と入れ」
「男前だな・・ヴィー・・」
お前が小難しいんだ!とヴァルディスは非難したがレオニクスは聞いていなかった。
いらっとしたものの大人しく言葉を待つヴァルディス。
「それじゃあ、潜入もなにもなく身分証使ってはいるか」
「ああって待てレオ。俺の身分証はないぞ」
「・・やっぱ潜入」
「したいのか」
「したい」
「そうか」
ヴァルディスは頷き、何も反論しなかった。
少し興味もあるし、自分がこそこそするなんて初めてで楽しみでもあった。
「ヴィーは黒尽くめだから夜がいいか?」
「研究施設まで入ればいいのだろう?止められないような入り口はないか?」
「どうだろう・・」
レオニクスはそこまで本部内には詳しくなかった。
本部は居心地が悪くていつも必要な場所にしかいかなかったからだ。
考えてみれば研究施設があることは知っていてもどこにあるかまでは知らない。
これはどうしたものかとレオニクスは考え込んだ。
「・・あ」
やがて声を上げたレオニクスにヴァルディスは視線をやった。
ヴァルディスの力を使えば何とでもなったのだがレオニクスにやらせてやりたかったので何も言わなかったのだ。
「そうだ。情報屋に聞こう」
「情報屋?」
「そう。何でも屋でもあるけど・・」
「どこにいる」
「レイトにもいたはず・・名前はアティナだったかな」
「女か?」
「いやいや。おんなじ顔、おんなじ口調の人なんだけど別人のアティナっていう組織だよ。それが組織名でもあり呼び名でもあるんだ」
「それでは会いに行くか」
「ああ」
レオニクスとヴァルディスは再び路地に舞い戻った。
レオニクスの記憶ではアティナはひっそりといるらしい。
まずは探そう、と二人は路地裏に繰り出した。
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