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確かに過ぎたことと言えばそうだ。代わりに殴られることなんて今となっては不可能だし。しかし、だからといって流されては後味が悪いわけで…

「―――楓?」

背後から声が聞こえ、びく、と劉殿の肩が揺れる。
声のした方を見ると、張り付いたような笑みを浮かべる男がいた。

「仕事中悪いね。ちょっと話、聞いてくれない?」
「…、はい…」

よく似た金の髪。
間近で見たことは無かったが、彼が劉可だろう。
確かに背もあるし俗に言う美形で、男にもてそう、というのは分かるかもしれない。
劉可は少し此方を見たが、気にせず話を始めた。

「楓、悪い話じゃない。どうやら最近天子が俺に飽きちゃったみたいでね。相手、してやってくれるかな」
「…え…天子様、ですか…?其れは…」
「――まさか、また断ろうなんて思ってないよな?」
「……っ、」

劉殿は押し黙って、唇を噛み締める。
他の誰でもなく天子が相手なら、断ろうものなら追放どころか処刑の可能性もあるかもしれない。
うまく言葉を紡げず、視線を泳がす劉殿の首の痕を、劉可が潰すように押した。

「はは、お前には難しい話じゃないだろう?楓」
「あ、ぃ…っ、た…痛いです…っ」

今にも泣きそうな声で言う。そんなのも、可愛い…じゃなくて、俺はあの人が他人の抱き人形なんてのは真っ平御免。元は俺の所為なのだから、やめさせねばと思う。とにかくそれだけは阻止したくて、口を開いた。

「俺じゃ駄目ですかね」

劉可は劉殿からぱっと手を離し、俺に向き直る。

「…誰だい君は。楓の友達?――それとも恋人?」
「……………。……友人です」
「なに?今の間」

恋人です!とか嘘を言おうものなら、劉殿にしばかれるだろうな、という間である。実際そうなら良かったのだが、現実は其処まで優しく無い。

「あの…兄さま、彼は呉真と申しますが…」
「あー!あの神童だか剣道だか言われてた奴か。ふーん、想像よりも立派そうな人間だねえ、君は」
「はあ、有り難う御座います」

何を想像していて何が立派だったのかさっぱりだ。


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あきゅろす。
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