2 確かに過ぎたことと言えばそうだ。代わりに殴られることなんて今となっては不可能だし。しかし、だからといって流されては後味が悪いわけで… 「―――楓?」 背後から声が聞こえ、びく、と劉殿の肩が揺れる。 声のした方を見ると、張り付いたような笑みを浮かべる男がいた。 「仕事中悪いね。ちょっと話、聞いてくれない?」 「…、はい…」 よく似た金の髪。 間近で見たことは無かったが、彼が劉可だろう。 確かに背もあるし俗に言う美形で、男にもてそう、というのは分かるかもしれない。 劉可は少し此方を見たが、気にせず話を始めた。 「楓、悪い話じゃない。どうやら最近天子が俺に飽きちゃったみたいでね。相手、してやってくれるかな」 「…え…天子様、ですか…?其れは…」 「――まさか、また断ろうなんて思ってないよな?」 「……っ、」 劉殿は押し黙って、唇を噛み締める。 他の誰でもなく天子が相手なら、断ろうものなら追放どころか処刑の可能性もあるかもしれない。 うまく言葉を紡げず、視線を泳がす劉殿の首の痕を、劉可が潰すように押した。 「はは、お前には難しい話じゃないだろう?楓」 「あ、ぃ…っ、た…痛いです…っ」 今にも泣きそうな声で言う。そんなのも、可愛い…じゃなくて、俺はあの人が他人の抱き人形なんてのは真っ平御免。元は俺の所為なのだから、やめさせねばと思う。とにかくそれだけは阻止したくて、口を開いた。 「俺じゃ駄目ですかね」 劉可は劉殿からぱっと手を離し、俺に向き直る。 「…誰だい君は。楓の友達?――それとも恋人?」 「……………。……友人です」 「なに?今の間」 恋人です!とか嘘を言おうものなら、劉殿にしばかれるだろうな、という間である。実際そうなら良かったのだが、現実は其処まで優しく無い。 「あの…兄さま、彼は呉真と申しますが…」 「あー!あの神童だか剣道だか言われてた奴か。ふーん、想像よりも立派そうな人間だねえ、君は」 「はあ、有り難う御座います」 何を想像していて何が立派だったのかさっぱりだ。 [*前へ][次へ#] |