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ああ、あの星屑ならばごみ箱に棄ててしまったよ


ただの片思い、それに利害の一致した、これは気まぐれ。そんなことわかってるはずなのになー。釈然としない気持ちを抱えたままボスの部屋に入るために渡されたICカードをかざして扉が開いたとき、後ろから手首を強く掴まれた。

「!」
「今日もか」
「γ…」

そこにいたのはγだった。彼にしては珍しく髪が乱れて息が少し上がっているところを見るとどうやら走ってきたらしい。そんなγに少し嫌気がさしながら、どうしたのとなるべく無表情で聞いてみる。γはそんな私に小さくため息をついて真面目な顔をした。やだ、γに真面目な顔なんて似合わないよ。

「傷つくだけだ」
「…でも、行かなきゃ。ボスだもん」
「嫌な事は断れ。自分を大事にしろ、ボスが悲しむ」
「これがあたしなりのボスの守り方なんだけど」

うそ。本当は嘘をついてる。だからγの顔は見れなくて、目は反らしたままだった。でもそんなのγはお見通しでしょ?私のせいで、ファミリーにも乱れが生じてきてるかな。ごめん。でもこのままじゃ私が辛い。私は私を守るために今日ももう1人のボスのところへと足を運ぶの。現実から目を反らすように、γの手を振り払おうとした時だった。

「nameチャン」
「…ボス…」
「遅いから迎えにきちゃった」
「…お手を煩わせて、申し訳ございません。γ、もうあたし行く」
「γクン、ごめんね。nameチャンに用事があるんだ」

ボスはぐいと私の肩を引き寄せるように抱きしめたけど、γに対するその言葉はとても冷ややかなもので少し鳥肌が立ったくらい。γは露骨に嫌そうな顔をすると何も言わずに踵を返して行ってしまった。胸の奥が痛む。罪悪感?まさかね、そんな気持ちそのうちなくなる。ボスと肌を重ね終わって、ベッドに仰向けになったまま眠れないでいるとボスに話しかけられた。

「ねぇ」
「…はい」
「今日はつまんなそうだったね」
「そんなこと、ないです…」
「γクンのことまだ好きなの?」
「…そんなわけないです」
「嘘が下手だね」

ボスは意地悪く笑って私の頭を撫でた。その手つきは優しいけど、ほんとはとてもとても嫌な人。大嫌い。大嫌い、でも今の私のいい気休めになるのはボスである白蘭様くらいしかいなかった。ボスが私を抱きしめるのだってきっとまた気まぐれだ。でもγに一生叶わない虚しい思いを一方的に抱いているよりはずっとマシ。私の気も知らないで、γの優しさは今の私には残酷だ。

「ああいう愛情じゃ満足できないんだ?」
「別に、保護者として好きな訳じゃありませんから」
「ふーん?」
「ボス」
「何?ボクそろそろ眠くなってきちゃったなぁ」
「ホワイトスペルへの異動の話、受けさせていただきます」

あまりに部屋の雰囲気にそぐわないその私の言葉に、ボスは今まで見せた事もないような満足そうな笑みを浮かべて、私を抱きしめた。案外この人は私の事が本当にお気に入りなのかもしれない。愛する人が愛する人に尽くす姿を一番傍で見ているなんて私には辛すぎた。わかってほしいなんて我が侭だけれど、それくらい貴方の事が好きだったんだよ。



(20101104)




あきゅろす。
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