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夕立の庭(※総悟病ネタ注意)









幾度激しい雨の中、全てが流れても。










■夕立の庭











ぱた、ぱた、と空から落ちる水滴の音に目を覚ました。





「土方…さん」



自分が寝付くまで手を握ってくれていた冷たい左手はもう無くて、柄にも無く寂しいだなんて思ってしまう。


体を起こすついでに大きく息を吸い込むと、ヒュウ、と喉に風が抜けた。
信じられない程体重が落ちたのに、信じられない程体が重たい。



それなのにどうしてか、雨の庭に出たいと思った。





布団から這い出て、裸足のまま庭に降りた。
薄い着流しはすぐさま水を吸い、びしょ濡れになってしまう。
風邪をひくのは今更怖くないけど、張り付く布の感触が気持ち悪い。



叩きつけるような雨に打たれながら、今日は煙草に火がつきにくくてイライラしてるかな、とあの人を想う。




ひたすら彼に構って欲しくて、派手な悪戯をやらかしたりした。
そんな毎日も、そう遠くはない筈なのに今振り返れば愛しくさえ思う。
そんなことを考える自分はきっともう永くない。



「総悟!!」




何やってるんだ、と努気を含んだ声とともに濡れた地面を蹴る音が近付く。


「土方さん」
「中に入れ、バカ」
「大丈夫でさァ、風邪なんかひきやせん」




濡れていたいんです、
貴方と俺を平等に濡らすこの雨に。





「濡れられちゃ俺が困るんだ」


ああどうしてそんな、残酷な優しさを向けるの。


もう二度とこの人のことで傷付かないって決めたのに。軋む心臓は俺のいうことなんてちっとも聞きやしない。

「放っといてくだせ…っ!…ゲホ…ッ!」
「総悟!」


口元を押さえた掌に血が滲む。

「…中に入れ」
「嫌で…さっ…!…っは…」


どくどくと込み上げてくる血が口の中いっぱいに広がり、此れが血の味なのかどうなのかすらわからなくなる。


「総悟…頼むから」


血まみれの俺を抱き締めた土方さんは、きっと泣きそうな顔してる。



「っ…優しくなんか…しねェでくだせぇよ…!」



ヒュウ、ヒュウと鳴る喉。そこから絞り出した言葉はなんて可愛気の無い、

「大嫌い…!っ嫌い…っ」




アンタなんて、
それは自分に言い聞かせるような、




そう言いながら土方さんの隊服をしっかり握りしめてたのは紛れもないこの俺で。
なだめすかすように髪を撫でてくれる手は優しすぎて。


ごめんなさい、本当は大好きなのに。




「総悟」

「…っ…ぅ…」




色んな想いが混ざり合って、ただ涙みたいに止まらなかった。
咳をする度に溢れる鮮明な赤で、土方さんの隊服を汚してしまうのも構わずただ泣いていた。背中を擦ってくれるその手は、きっといつも以上に冷たいんだろう。






「土方さん、」







夕立の庭で気付いてしまったことがある。
変えること出来ない未来も、この世にはあること。





「俺のこと、忘れないで」












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限られた時の中、何を残せるだろう。








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あきゅろす。
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