text
たとへば君(3Z銀←沖)
オレンジ色が景色を染めていく。
冷たい空気の中、日溜まりに秋のぬくもり。
その体温を、指先にちょっとだけ
感じてみたいと思う。
■たとへば君
「ああ面倒くせぇ」
ここ最近、学力向上推進期間だとか何とかで、週に1度各教科のチェックテストがある。
設定された目標点に到達しなければ補習というわけだ。
補習という名のサービス残業。銀八はすっかり辟易としていた。
本日の居残り、1名。
沖田は教壇から3列ほど離れた、窓際の席に律儀に座っていた。
「健全な男子高校生が真面目に補習受けにくるかフツー」
「先生のような腐った大人にはなりたくないんでさァ」
ああそう、と盛大な溜め息をついた後、銀八は1冊の本を寄越した。
「とりあえずコレ読んで補習時間潰せや」
沖田は、本の表題を声に出して読む。
「こえに、だして、よみたいにほんご」
「あー別にいちいち音読しなくていいから、うるせーし」
「へェ」
それじゃあがんばってねと他人事のようにに言った銀八の手が、去り際ふいにくしゃり、沖田の髪をかき混ぜた。
ぱらぱらと、ページをめくるのをやめて、沖田は銀八をみた。
「ん?何か質問か?」
「…何でもねぇです」
「あ、そう」
「たとへば君…」
銀八の去った教室に、沖田の小さく呟いた声がやけに大きく響いて消えた。
ガサツと落ち葉すくうやうに
私をさらつて行つてはくれぬか。
[*前へ][次へ#]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!