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Home Sweet Home












哀しい気持ちだってさ、すぐ忘れられたから こわくないよ。













■Home Sweet Home













「あーぁ、降ってきちまったィ」

予感はしていた。
その予感通り降り始めた雨は、少年の髪を静かに濡らし始める。


いつも市内巡回の際に通り過ぎる(たまにここでサボったりする)公園の、滑り台の上。
沖田はそこから世界を見渡していた。
世界を見渡す、と言っても、せいぜい自分の身長より数十センチ高い場所に居るだけである。



「おれ、デカくなったなァ」


いや、世界が小さくなったのか?
呟きは雨音に吸い取られて消える。








「総悟!」
「あれ、土方さん」
「何やってんだこんなとこで!」

土方が怒声とともに駆け寄ってきて、上着を掛けられる。
そうしてすぐに、黒い傘の中に引き込まれた。


「今日は非番でさァ。サボってなんかいやせんぜ」
「そうじゃねぇよ、何でこんなとこでわざわざ雨に濡れてるのかってんだよ」
「ノスタルジアでさぁ」
「…意味わかんねぇよ」



土方は大袈裟にため息をついて見せ、帰るぞ、と沖田を促した。





手を引かれて沖田は記憶をぐるぐると巡らせる。

どこに隠れても、どうしてかこの人には見つかってしまうのだ。


幼い頃の小さな冒険。
遠くに行きすぎて、帰れなくなってしまっても、いつだって最初に見つけてくれた。
悔しいけど、たまらなく安心したことを覚えている。






「土方さん」
「あ?」
「近藤さん、心配してやした?」
「ったりめーだ。今日の主役が行方不明だって総動員で捜索しようとしてたぞ」
「相変わらず過保護でさァ」
「お前にだけだよ」



呆れたように少し笑って、土方は沖田の為に持参したもう1本の傘を差し出した。
それだけで、あとは何も言わず滑り台を離れる。







「あ、総悟」












誕生日おめでとう。








振り返った土方が、雨の音よりはっきりと、そう言った。














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うちへかえろう.


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