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午後の海(3Z土沖)
喜びに声が震える
そんな奇跡を探しながら
■午後の海
「海行きやしょう、海!」
定期テスト最終日、学校は午前中で終了ということで、前々から終わったらどこかへ行こうと約束していた。
それで総悟はテストが始まる前から、終わったらどこへ遊びに行こうかと考えを巡らせていたのだ。
電車に乗って、終点の1つ手前の駅。
終点に近づくにつれ乗客も少なくなり、開けた窓から吹き込む風はかすかに潮の匂いがした。
「海だー!!」
「バカ、走んなって」
靴と靴下を脱ぎ捨てて、総悟は海に向かって砂浜を一目散に駆け出した。
ズボンの裾をバカ丁寧に折り曲げている俺は置き去りにされる。
「土方さん、早く!」
「うりゃ!」
「っひゃ、冷てェ」
ベタな映画のワンシーンみたいに、波打ち際を総悟が後ろ向きに走りながら俺を誘う。
手が届かない代わりに、水面を蹴り上げて総悟に水をかける。
服を着たままだとか、そんなのはお構いなし。
「やったな土方ァ!」
ばしゃんと大げさな音を立てて、総悟は両腕で水を掬って俺に投げつけた。
直撃を受けたシャツは取り返しがつかないほどびしょ濡れになってしまう。
「テメ、何しやがる!」
ついムキになって、総悟の腕を捕まえてこちらに引き寄せた。
総悟の目に浮かぶ俺とちょうど目が合う。
「…ひじ、」
「こういうときは黙って目ェ閉じんだよ」
「んぅ、」
きちんと了承を得ないまま、総悟の唇に自分の唇を押し付けた。
傾いた陽に長く伸びた二つの影が、繋がって一つになる。
繋いだ手のひらに力を込めて、時間よ止まれと、密かに願った。
(握り返された手のひらは、同じことを願ってくれてるって、受け取ってもいいんだろうか)
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消えちゃうまで触りあってたいだけ。
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