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初恋サンセット(3Z土沖)











君と僕は今
無意味な時間の意味を知る。

















■初恋サンセット


















むわむわとアスファルトから熱が上昇してくる。
蝉の声どころか沈みかけた夕日の色まで暑さを助長しているみたいだちくしょう。





「アーイースっアーイースっ」
「だああぁぁ!やかましいな!」
「土方ァー暑いー死ぬぅー」
「勝手に死ね。俺だって暑いわボケ」


俺の運転するチャリの後部座席で総悟はさっきから、暑いとかアイスが食いたいとか、そればっかりだ。



「あ!」
「っうお!」

突然背中のシャツを力いっぱい引っ張られて、バランスを崩した俺は思いきりその場で転倒した。
自転車はガシャン!と派手な音を立てて倒れ、俺と総悟は道に投げ出された。

「何だよ!」
「ヒコーキ雲」

仰向けになって総悟が、空を指差す。
たしかにそこには長いまっすぐな飛行機雲が、空を分断するかのように延びていた。


「…別に珍しくもないだろ!」
「空が割れちまいまさぁ」


何がおかしくて笑うのか、総悟はまるで人の話を聞いていない。
カラカラと、倒れた自転車のタイヤが空回りして止まる。
黒いアスファルトは、太陽熱を必要以上に吸って手のひらに熱い。手をついたままにしていれば、たちまち火傷しそうだ。



「あーくそ、怒鳴ったらますます暑くなった」


総悟をひと睨みして、自転車を起こそうと立ち上がろうとすると、総悟が静かに俺の手首を掴んだ。
振り返ると真ん丸い双眸が俺の顔をじとっと見ている。
あ、吸い込まれそう、総悟の瞳の中の俺は、そんな顔をして。




「何、」
「…、脈があるかと思いやして」
「死んでねーし!いてて!」
「あんた、バカじゃねぇですかィ」


人の手首を握力の限り圧迫し、解放したかと思えば何かに弾かれたように立ち上がり、総悟は駆け出した。





「え…?」





放り出された鞄も拾わず、総悟はばたばたと大げさに走り去ってしまう。
置き去りにされて初めて俺は、俺の脳は、その言葉を噛み砕こうと働き出す。






「あ…!おい総悟!」






ようやく名前を呼んだものの、それだけが精一杯。
次の瞬間には倒れた自転車も、転がる鞄もそのままに総悟を追いかけた。



「待てって!」



今度は俺が総悟の手首を掴む。
ぐんと引かれて、後ろに倒れそうになりながら振り返ったその頬は、夕日の色にとけて。




「あるよ、脈…」





心臓が、何だかばくばく言う。
走ったせい、だけではなくて。
心臓から、さっき総悟が掴んだ左手首へ血が巡っていく。
左手首の血管が、心臓よろしくばくばく言う。

掴んだ総悟の手首を流れる血液も、つられるようにだんだん質量を増して、そこから総悟の心音を聴けるような、それくらいばくばく言った。




「…っ、死ねィ」





俺の手を振りほどき、再び前を向いて走り出す総悟の背中まで、赤とオレンジに染まるみたいだった































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伝えたいことも伝えたえきれないことも知っている夕暮れ。

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