終わらない世界の中で
02
誰か来る、そう思ったら数秒後本当に来た。ゆっくり扉を開け俺へと歩み寄ってくるとフルーツの甘い香りがした。
「ここにいたんだ」
普段のような甘い声ではなく少しキツめのソプラノの声。起き上がるつもりはなく寝転んだまま見向きもせず空を眺めた。
『何しに来た』
「そんなに警戒しないでよ。少し話そうと思って」
『話すことなんかない』
「蓮君は、でしょ。私はあるの」
気分悪い。立ち上がり屋上を出ようとすると腕を掴まれた。逃がさない、と慌てて捲し立てる。
「待ってってば」
『しつけーな』
「つまんないと思わない?」
『何が』
「どんなに蓮君を苛めても無反応だしそれどころか気持ちよく殴ってる時に雲雀さんが来ちゃって…お陰で暴力はめっきり減っちゃった。ツナや山本君は疑問を感じてる。自分達のやってることが本当に正しいのかって」
『へぇ』
俺の顔色を窺いながら喋り続けるが興味ない。
「だからさぁ、また何か起こさないとね?」
腕をぎゅっと爪を立て強く握り締められ卑しく笑う彼女に寒気がした。不気味で気持ち悪くて無理矢理手を振り払った。今度は一体…。
「ねぇ…前京子ちゃんと歩いてたでしょう?偶然ね、私見たんだ。小さい子連れて遊んでるとこ」
まさか。悪いことしか思い浮かばない。
「貴方は平気でも京子ちゃんに手を出したら…どんな表情するかなぁ?」
『お前…!』
「きゃはははは!!」
高らかに笑う彼女にゾクッと寒気がした。そして思う、尋常じゃないと。
睨み付けても口元は歪めたまま。
「やだなぁそんな怖い顔しないでよ。冗談通じないんだから」
胸くそ悪い。こいつの口から出た言葉なんか全て冗談で終わる訳ない。
「今なら許してあげてもいいよ」
訝しげな目で見れば先程とは違う笑顔で今度は可愛らしくニコリと言った。
「ごめんなさいって一言言ってくれれば考えてあげる。本当は地面におでこ付けて土下座もしてほしいけど折角の顔が台無しになっちゃうもんね」
『嫌に決まってんだろ』
どういった風の吹き回しかと思えばそんなこと…。なら死んだ方がマシ。
「あーあ、残念。チャンスだったのに」
何がチャンスだ、端からそんな気ないくせにアホらしい。不意にここで生まれた一つの疑問を聞いてみた。
『どうして俺に構う?』
「最初に言ったでしょ、好きだからだって」
『好きだとこんなことするのか』
「こんなこと?…それは蓮君が悪いんだよ」
『は、』
気に障るようことした覚えはないんだけど…ああ、思い出した。告白断ったことまだ根に持ってるのか。
「私さぁ初めてなんだよね、断られたの。いつもは皆から来るから告白するってことはないんだけどショックだったなぁ…。蓮君って格好いいじゃん?性格も…まぁ悪くなさそうだし。だから私のモノにしたかったけど手に入らないなら最近つまんなかったし丁度いいから暇潰しに遊ぼうと思って」
山本君と獄寺君も良いんだけど飽きちゃったんだよね、と呟いた。
『そんな理由でお前は…!』
「そんな理由?私からしたら重要なことだよ。第一蓮君が私の告白断らなければこんなことはしなかった…かもね。でもね、楽しいの。私が泣けば面白いくらいに皆私の言うことを信じるし聞く。皆は私の言いなり、なんて馬鹿なんだろうね。騙されてるのに気付かない。だから止められない」
狂ってる。このまま放って置いたらいつか必ず取り返しのつかないことになる。その前に俺の手で、
「…こんなこと話すつもりなかったのに…まぁいいや。そういえば今朝も京子ちゃんと話してたみたいね」
いつどこで見たんだか…怖いほどよく見てるな。
「そんなにあの子が大事?」
『お前よりはな』
彼女を置いて居心地の悪くなった屋上を後にした。
ポケットに手を突っ込みそのスイッチを切る。いいものが録れたと口許の緩みを抑えながら。
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