幻滅デイリー 酷い嘘 世の中には、いくつかついてはいけない嘘がある。いわゆる、禁断という種類の嘘である。 さて、それは俺の経験上で二つある。一つは、怪我である。これは嘘だとしても、決して許しがたい行為だ。さて、二つ目は。 「子供が出来たみたいだわ」 彼女は、冷静に言った。避妊はしていたが、まあ完璧という避妊は無いとも聞く。これだけについては男の俺は知識に乏しいし、子供なんていうのは授かりものだとも聞いた事がある。 「だって、アレも無いのよ」 「あ……、そう」 何も不都合は無い。むしろ、嬉しいくらいの事だった。しかし、突然過ぎてリアクションも取れなかった。 「俺、親に報告すっからさ」 嬉し過ぎて、携帯電話のキィも上手く押せやしない。仕事も軌道に乗り始めてきたし、何も不都合は無い。早く孫の顔を見たがっていた親も、喜ばせてやる事が出来る。 「待って」 「どうしたんだよ」 そのまま、携帯電話を引ったくられる。 「ただの生理不順よ、子供は出来ていないわ」 「……え?」 一瞬、唖然とする。 「エイプリルフール」 家内でなければ、殴っていたかもしれない。激情家では無いが、生命に関して嘘をつくのは感心しない。 「他所では、騙されないでね」 [戻][進] |