幻滅デイリー 走る如月 青年は少女の溜め息がさもBGMかの様に、紅茶を一口啜った。 「今年も、二月は早く感じました」 「一日、多かったけれどね」 少女は睫毛を伏せ、ティーカップに口を付ける。しかし、未だ熱かったのだろう。飲まずに、カップをソーサーに置いた。 「ところで、君は未だ四歳だったね」 「ええ、四年に一度しか誕生日が来ませんから。暦の上では、未だ四歳ですね」 ルイス・キャロル作『不思議の国のアリス』のアリスを彷彿とさせる、水色を貴重とした服を着ていた。いや、今風にいうならばロリータ・ファッションか。それも、また古いだろうか。 「まあ、今年は閏年だったという事だ。今の子はどうしてか解らないが、閏年の原理をなかなか理解しようともしない」 「まあ」 少女は、口元に手を当てながらクッキーを摘む。サクサクとした乾いた音は、クッキーの美味しさを表している様だった。そして、紅茶を吹き冷ます。 「わたしも、あまりよく閏年は解らないのですけどね」 「地球が太陽を一周するのは365日5時間48分46秒だから、その端数を積んで太陽暦では4年に一回、2月の日数を29日としているんだ。ただ、それだけだよ」 手近にあった、ナプキンにボールペンでさらさらと書いて少女に渡す。しかし、少女はそれを破り捨てた。 「一応、わたしも十六歳ですけどね」 そう言って、楽しそうに笑っていた。 [進] |