幻滅デイリー 水槽依存クライアント 「水槽内の魚の気持ち、って考えた事がありますか?」 薄暗く、水槽内だけが青白く光る。滑らかに伸びた髪と、妖しげな目が印象的な青年だった。いくら金持ちのクライアントと言えど、こんな奴と四六時中一緒にいたら此方が喰われてしまう。 「考えた事は、無いな」 腕を組んで答えると、青年は素っ気なく「そう」とだけ応えた。 「その水槽はね、ペットショップに置いてあるんですよ」 袖から伸びる白い腕。余程、外に出ていないのだろう。素足も、随分と白い。椅子に座ったまま、水槽の置いてある台に上半身を預けている。 「勿論、その水槽内の魚は鑑賞用では無いんですよ。もっと、大きな魚の餌となる為に育てられているんです」 「それも、仕方が無い事だろう? 人間だって、家畜を殺して食べる。大して、変わらない事だ」 「では、あなたは人間を食べるのですか? だって、言っている事はそういう事ですよね?」 「それは、屁理屈だ!」 「嗚呼、ぼくは耳が弱いのです。それに、魚達も驚きます。頼みます、大声を出さないで頂けますか」 お前が弱いのは、頭の間違いだろうに。何故、俺が譲歩しなければならない。青年は、苦しそうに言った。 「嗚呼、あなたも脱落です」 [戻][進] |