幻滅デイリー 逆行彼氏 朝起きたら、尻尾が生えていた。臀部の辺りから、猫の様な尻尾が伸びている。 「ハァァァァァッ?!」 マジで、マジなのか。うわ、これじゃあ大学にも行けねえ。じゃない、病院か。病院に行かなきゃ駄目だ、診察券と保険証どこやったっけか。いやいや、その前にこんな恰好で外に出れねえって。細身のジーパンを出してみて、ぐったりする。切られんのかな、これ。人間に尻尾が無いのは、退化か進化か。生物学なんて、何も役に立たねえ。俺は自分の尻尾をつかんで、引っ張ってみる。 「痛って!」 駄目だ。寝ぼけているとか、そういう類いじゃない。 「はァ……、どうすりゃ良いんだよ……」 つか、もう解らん……。絶望感に包まれたまま、床に伏せる。取り敢えずは、メールで『講義休むから、ノート頼むわ』と彼女に送っておく。 「しかし、ヤバいって……」 午後になっても、尻尾が引っ込む事は無かった。まあ、薄々そういう気はしていたけどさ。 ガチャン。 「え……?」 ドアの音に振り向くと、合鍵とコンビニ袋を提げた彼女が立っていた。浅くジャージのズボンを履いている、変な尻尾付きの男。それが、どう考えても第一印象だろう。 「あ、の……これは」 ツカツカと怯みもせず寄ってくる彼女に、思わず飛びのく。 「淳司が……、変な趣味に目覚めたァ!」 ぼろぼろと大粒の涙を零しながら、わあわあと泣き叫ぶ。 「目覚めてねえから、マジで! そういう趣味とか、ねえし!」 「じゃあ、何で言い訳しようとしたのよ! 何でそんなに、しどろもどろしてんのよ!」 近付いて宥めれば、ぎゅうと力強く尻尾を引っ張られる。 「痛っ、止めろ痛えだろうが」 「馬鹿言わないでよ」 「なっ、うわ、何すんだよ!」 服を剥がされ、尻尾の付け根を確認される。 「………」 「………」 「あのー、一言くらい詫びて頂けませんか。俺、超傷付いたんですが」 男はこういう時、何か損している気がする。脱がされても、俺が悪いみたいなリアクションって本当勘弁なんですけど。 「本物?」 「本物」 まだ、疑うか。 「どうするの?」 「解んね」 「病院は?」 「お前のリアクションで解った。絶対、行かねえから」 俺の決心は固い、が。この、勝手に動くのはどうにかしたい。彼女の手首に勝手に絡まって、よく解らない上に面倒極まりない。 「試したい事があるんだよね……」 「あ? 尻尾が取れるなら、いいぜ」 「切るのは、猫と一緒だったら危ないと思うの。尻尾と脊髄だっけな、何かね神経系とかなり密接だから痛いと思うのね。それより」 きらりと、彼女の目が光った気がした。じり、と追い詰められて思わず後ずさる。 「な、何だよ……」 「猫の尻尾の付け根ってさ、性感帯らしいんだよね」 「は?」 ※ 「ぎゃあぁああっ?!」 俺は、心の底から尻尾の存在を怨んだ。 [戻][進] |