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名探偵の助手
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 キャンパス内が騒がしい事は、校門の外からでも解った。
「あれ? 今日、何かあったかな。いやに、人が多い気がする……」
人込みを掻き分けて騒ぎの中心を見ると、莉子は絶句する。思わず、首吊り死体から目を背けた。しかし、瞼の裏にはくっきりと焼き付いている。赤黒くなった肌、穴という穴から溢れた体液、血走った目。もよおしてくる吐き気に、口を押さえた。
「はい、学生は早く校舎へ入って!」
職員や警官は学生を近付けない様に関係者以外立入禁止と黒で書かれた黄色のテープを貼ったり、校舎へと学生を追い立てている。
「気になって、来てみればこれか」
「秋野、さん……」
先程分かれたばかりの秋野が、莉子にハンカチを手渡す。自らの所属している部署で、日本芸術大学という場所を立ち聞きした彼の行動は驚く程に速かった。それは、彼女よりも速く大学に着いていた事からも十分に確認出来る。
「あ……、有難う御座います……」
「早く校舎の方に」
「は、はい……」
そのハンカチで口元を押さえ、莉子は校舎へと向かった。
「早く降ろしてやれ」
「はっ」
彼の部下と思われる警官は、用務員の老人が持ってきた脚立に登って死体を降ろす。
「自殺か……、珍しくは無いが」
「だが、気になるところだ」
軽く屈み、死体を観察しながら意見を交わす二人の男。
「ウェルテル効果か」
「いや、それは考えにくい。最近のメディアは、意外と自殺の報道に気を遣う。しかし、なかなか学があるじゃないか秋野時雨刑事」
余程集中していたのか、秋野は名前を呼ばれてハッとする。
「せ、扇城寺……」
「どうやら、うちの助手が世話になっている様で痛み入る」
嫌味か、と普段より仏頂面になる刑事。
「……民間の方は作業の妨げになりますので、お帰り下さい」
「わたしは探偵だぞ」
「要請はしておりませんが」
しばし睨み合うが、秋野が折れる。
「勝手にしろ」
「ああ、最初から勝手にさせて貰うつもりだったからな」
莉子ちゃんはいつもこんな奴と一緒にいるのか、と刑事は眉間を押さえて溜息をついた。
「ところで、警察は一体どこまで調べがついている?」
「誰が教えるか」
「ふん、そんな事を言って良いのか? こっちは例の桜での首吊り自殺の件で、有力な情報が手にあるのだがな」
にやにやと笑う扇城寺を一瞥すると、秋野は悔しそうに歯を食い縛る。
「だったら、何だ」
「情報の交換を要求している」
「情報を持っているとして、どこで手に入れた? そして、その信憑性はあるのか?」
刑事の返答に、鼻で笑う探偵。
「入手については企業秘密なので、ノーコメントだ。だが、信憑性は大いにある」
秋野は渋々と手帳を開いて、その内容を読み上げる。
「被害者は田並吾比、楽理科の二回生で二十歳。生活態度も真面目な、将来有望の好青年だったらしい」
「ビンゴだな。田並吾比は例の事件の際、近所でとある人物と共に目撃されている」
扇城寺はパチンと指を鳴らし、勿体振った喋り方で秋野を苛立たせる。
「田並はワゴン車を運転し、助手席に男を乗せていた。ワゴン車の持ち主にも、既に裏は取っている」
「一体……、誰を助手席に乗せていた……?」
「それは解らんな。情報次第では、ワゴンの持ち主も紹介する」
ギリッ、と秋野は歯茎から血が出そうになるくらいの歯軋りをする。
「何だ、もう終わりか。警察も大した事は無いのだな」
あっははは、という高笑いで探偵は辺りの注目を集めていた。

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あきゅろす。
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