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名探偵の助手
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「秋野さん、お弁当忘れてっちゃったんだ。やっぱり、持っていく習慣が無いからかなあ」
見送ったのに、忘れ物をさせてしまうなんてと溜息をつく。莉子は時計見て、余裕がある事を確認する。
「警視庁に寄っても、間に合うかな」
秋野の弁当箱とカバンを手に、彼女は警視庁へと急いだ。

「あのう……、伊部というものですが、秋野時雨さんはいらっしゃいますでしょうか……?」
「刑事部、捜査一課の秋野時雨ですね」
「あ、そうです」
「少々、お待ち下さいませ」
受付の婦警が内線を押して「一階、入口で伊部さんがお見えになっております」と言うと、すぐに秋野は走ってきた。
「莉子ちゃん、どうかした?」
やはり、扇城寺とは比べ物にならない優しさである。莉子は走っていないにも関わらず、心拍数を上げながら弁当を差し出した。
「あ、あの、お弁当、忘れて行っちゃったから……」
「ああ、有難う」
風呂敷に包まれた弁当を受け取り、彼は彼女の頭を撫でる。
「はーい、そこでイチャつかなーい」
眼鏡を掛けた青年が軽く手を打ち鳴らしながら、ニヤニヤと二人を見ていた。
「イチャ……」
「っていうか、秋野さん軽く犯罪じゃね? その子、俺とそんなに年端変わんねーみたいだし」
軽いノリと話し振りで、秋野と莉子の間に割って入る眼鏡。そして、彼女を口説き始める。
「君、可愛いね。俺、空野葵っていうんだけど。君の名前は?」
「い、伊部です……」
「伊部? 下は?」
「莉子です……」
押しに弱いのか、あっという間に会話の主導権を奪われる莉子。
「莉子か、よろしくな。折角だから、メアドとケー番交換しようぜ。赤外線使える?」
空野はポケットから折りたたみ式の携帯電話を出し、それを片手で開いて操る。彼女もカバンから携帯電話を取り出し、ポチポチとキーを押して確かめてから返答した。
「あ、はい、大丈夫ですよ」
「莉子ちゃん、空野のペースに乗るな」
「だ、大丈夫です」
こりゃ、大分乗らされてんなと呟く秋野。
「んじゃ、俺から送るから」
「あ、はい、お願いします」
ピピッと電子音と共に、携帯電話のLSDライトが点滅する。空野のディスプレイには送信完了、莉子の方には受信完了と表示された。すると、眼鏡は「行った?」と確認をする。彼女が「あ、はい、来ました来ました。じゃあ、今送りますね」と答えると、再び電子音と共にLSDライトが点滅した。
「んじゃ、後でメールするから」
「は、はいッ」
空野が軽く笑うと、莉子は姿勢を正す。それを見ると、眼鏡は目を細めて笑った。
「そんな固くならなくても良いって、俺の事を呼ぶ時も葵で良いから」
「で、では」
二人に向かって、彼女は何度か頭を下げる。
「まったねー、莉子」
「お、お先に失礼しますね」
空野と秋野は彼女の後ろ姿が見えなくなるまで、手を振っていた。それに気付いていた莉子は何度も振り返り、角を曲がって自らの姿が見えなくなるまで頭を下げていた。しかし、またすぐに彼女と会う事になるのを秋野は未だ知らなかった。

 配属部署へと戻る為、横に並んで階段を上りながら秋野に話し掛ける空野。
「伊部莉子、超レベル高く無いッスか? その辺のモデル顔負けの可愛さじゃないッスかー。秋野さんの彼女……、じゃあ無いッスよね?」
その台詞に、秋野は無言で眼鏡を睨みつける。
「何で睨むンスか」
「睨んでねえよ」
生意気な後輩の態度に、秋野はぶっきらぼうに答えた。その答え方に何かを閃いた空野は、更に挑発を重ねる。
「でも、三十路には負けらんないッスね。体力も下り坂じゃ、満足させられないっしょ」
「誰が体力無いって」
無意識に、顔が引き攣る秋野。それを見て、愉快そうに眼鏡は口元を押さえる。
「そりゃあ、秋野さんっしょ?」
「俺は、テクと経験でカバー出来る。お前こそ、体力測定の時なんかグダグダだったろ」
まさに、売り言葉に買い言葉であった。
「……秋野さんったら、へんたーい。莉子に教えてやろーっと」
「そんな暇があるなら、さっさと仕事をしろ」
携帯電話を弄りながら階段を上る空野の肩を、秋野は何度も軽く小突いていた。

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