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名探偵の助手
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「うわあ……、自分じゃないみたい……」
ふわふわの髪を触りながら、自分の髪がこうなるのかと興奮する。
「ほら、よく似合う」
美容師は彼女の後ろに回り、二面の鏡を当てて見せた。自分の前方にある鏡を見て、莉子は嬉しそうに微笑む。
「本当?」
「さて、それでは面接の結果だが」
女子大生が照れながら訊いたにも関わらず、彼は自分の話を進めた。彼女はそれに気分を害しながらも、ツッコミを入れてしまう。
「いきなりッ?!」
「合格だ」
「何でッ?!」
男は鏡を片付け、莉子の手を引いて椅子から下ろしながら答える。
「あのナンクロを解き、ここまで来れたなら合格だ。それとも、他にテストを受けたいのか」
彼女が椅子から下りるのを見ると、美容師はすぐに腕組みをした。上から見下ろされる威圧を感じながら、莉子は断る為の口実を探す。
「わたし、バイトなんてした事無いし」
「ちょうど良いじゃないか、就職にも有利だ」
良家の子女である莉子にとって、都合の良い断り方も無下にされてしまった。しかし、彼女も負けない。
「探偵の助手のバイトだなんて、どこの就職に便利なのよ」
「成程、頭の回転は悪くないな」
あのナンクロも解いた事だしな、と彼は付け足した。そして、些か無駄かと思いながらも「バイト代は弾むぞ」と補足してみる。
「……む」
「女子大生なのだから、欲しい服や靴もあるだろう?」
僅かな反応を見て、やはり女だなと実感しながら口元を歪ませた。
「……う」
「たまには、こうして髪を切って整えてやろう。わたしは、着付けやネイルアートも得意だぞ。何しろ、器用だからな」
「……く」
更に、美容師は女子大生の悩みと望みとを一気に搦め捕り、畳み掛ける。とうとう、莉子は根負けして頷いてしまった。これから、身に降り懸かる受難を知る由も無く。
「よろしくな、莉子」
「ところで、あなたの名前は?」
彼女は整った彼の顔を長く見られず、少し目線を反らしながら訊いた。すると、美容師は鼻で笑ってから答える。
「扇城寺有弥だ」
「扇城寺有弥……」
彼は彼で凄い名前ねと思いながら、莉子は扇城寺の差し出された手を握った。





(了)


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あきゅろす。
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