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マル秘
欲求
 内緒ッスよ?

 アタシは、変な男と対峙していた。
「人間っちゅうのは、驚く程に欲張りッス」
男はよく喋る奴だった。グッチのスーツを上手く着こなす程の細身に、年齢不詳の綺麗な顔立ち。そう、例えるなら世の中のドロドロした世界なんか知らないみたいに。試験管の中で、純粋培養されたみたいに。そして、その存在感。どれも、トップクラスの逸材。彼を逃しては、アタシの腕が泣く。男はアンティークチェアに座ったまま肘をつき、長い足を組んだ。きっと、椅子が低すぎるんだわと解釈する。
「例えば、食欲・性欲・物欲・征服欲・知識欲エトセトラエトセトラ」
「それがどうしたって言うの?」
アタシも椅子に座ったまま、相手の目を瞬きもせず直視してやる。でも、全く目を反らさない。余程自信があるのか、それとも馬鹿なのか。それはまだ、解らない。
「いえ、どうって事は無いッス」
アタシが腕組をして凄むと、男はヘラヘラと笑うばかりだった。男は皆、アタシに気を遣う。アタシに一線を引く。
「ちょっと、アンタ! アタシを誰だか知ってンの? 知ってて言ってンの?」
「知っていたら、何なんスか?」
アタシはドキッとした。違う、ドキッとさせられた。これは、とても興味深い。

 アタシは今日、この男をひっかけた。要は、ナンパみたいな物でしょうね。名前はまだ解らないけど、顔だけは良い。だから、アタシの専属モデルにしてやろうと近付いた。アタシの生業は、とあるブランドのデザイナー。そうして、少し話していたらこの店に連れこまれたってわけ。まあ、連れこみ宿や赤提灯の下げてある店じゃなくて良かったけど。でも、まさか相手の経営している店に連れて来られるとは思わなかった。小さな駅ビルの、一角の骨董屋なんて。しかも、明かりは月光とキャンドルなんて何を気取っているのか。
「フン、いいわ。話は単刀直入の方がいいから。アタシは、サンディブランドのデザイナー・成宮了。アンタをウチで、モデルとしてスカウトするわ。一切喋らなくていい仕事、体1つで勝負出来る」
ポカーンと口を開けたまま、黙りこくる男。最もな話だけど、そうなられちゃ困るのよ。
「まず、名前を訊きたいの」
早口で巻くし立てたは良いけど、ここで相手がどう出るか。それがかかっている。
「それは、無理な御話ッスね」
ノー、だった。
「何? 何が不満なの?お金? お金なら、ちゃんと払うわよ」
「お金の問題じゃあ無いッス」
相手の男は、小さく頭を振った。
「じゃあ、何? アタシをフラストレイションで殺す気なの?」
それか、マンネリズムで死んでしまうわ。アタシみたいな人種は、新風を取り入れていなければならない。常に、流行を作らなければ。
「じゃあ、何なのよッ!答えなさいよッ! 何なら良いのよッ!」
アタシは、知らずのうちに立ち上がって泣き喚いていた。テーブルのキャンドルが小さく揺れた。男は、小さく溜め息を吐く。何で、アタシがこんな男に溜め息を吐かれなきゃなんないのよ。
「欲求の恐怖、ッスね。新しい事をしたい、といのはよく解るッス。誰でも、人より一歩抜きん出たいという欲求はあるッス。けれども、それを人に頼っちゃあまだまだッス」
よく喋る男は嫌だわ。泣いたのも、何年ぶりかしら。
「……解ったわよ、じゃあね。アンタなんか、頼まれたって使うもんですか」
「望む所ッス」
アタシは店を後にした。アタシは、アタシでアタシの仕事をするだけ。

 内緒ッスよ。



サンディ デザイナー
  ナルミヤ アキラ
   Akira Narumiya
  TEL 042-***-****





「欲求」
(C)独:by-yuto.


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あきゅろす。
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