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Amnesia
uno
 わたしが何故、この様な目に遭うのでしょう。わたしが一体、何をしたと言うのでしょうか。神よ、あなたはこの世におられませんか──?

 19**/08/24 深夜

「いや、止めて下さい、止めてッ!」
ストリート系の恰好をした知らない男達に囲まれて、レンガ造りの壁へと追い詰められる一人の金髪碧眼のうら若き女性。暗い街は人気も無く、既に明かりも無い。彼女には怯え、逃げ惑うしか術は無かったのだ。
「悪い事はしねえって、な?」
「うるせえから、とっととやっちまうか」
「馬鹿、止せって。あまり乱暴に扱ったら、価値が下がっちまう」
男達の物騒な会話に、彼女は体温の降下を感じていた。彼らの下劣な笑いが、段々と彼女の恐怖を募らせていく。無意識に涙が零れ、嫌でもその先を考えさせられる。
「いや、いやあ……」
腕を掴まれ、更に壁へと押し付けられる。冷たい壁の感覚が無理矢理、彼女に現実を見せる。
「誰か、誰か助けてッ! お願い、助けて……」
「へへ、泣いた顔もそそるじゃねえか」
辱めを受けるなら、死んでやる──と思った瞬間だった。

──パンッ、パンパンパンパンパンッ!

何人かいた、周りの男の頭が吹っ飛ぶ。
「お楽しみの時間は終わりだ。その女、渡してもらおう」
白いスーツ姿の男性が、颯爽と現れる。気品と風格を兼ね備えた、大柄な男だった。
「きゃあぁああッ!」
しかし、彼女にとって新たなるパニックでしか無かった。叫ぶより他に、対応策も無い。そして、顔や服に飛び散った血飛沫がまた新たな恐怖心を目覚めさせる。その時、彼女はロザリオを落としてしまった事を知る由もなかった。
「俺達を知らねえのか、殺すぞコラァ」
それぞれナイフや拳銃を取り出して、スーツ姿の男性を睨む野蛮そうな男達。彼女はハラハラしながら、その様子を見守っていた。
「ふん、知っているから出てきたのだろうが。見くびるな、たかがチンピラのくせに」
顔を顰めて、ペッと唾を吐き捨てる。ぽつぽつと見える明かりと月光に照らされ、彫りの深い顔立ちがはっきりと見えた。綺麗な、造り物の様な顔立ち。獣の様な鋭い目付き、スッとした高い鼻、薄い唇。そして、新郎を彷彿とさせる純白のスーツ。やがて、男達の一人が震えながらゆっくりと男性を指差した。
「あ、あああああ……アンタッ!」

 パンッ。

静寂だけが存在していた世界は、発砲音で崩される。その音と共に、指差した方の手は綺麗に吹っ飛んでいた。
「初対面の相手に、指を差すな」
彼女は、それを唖然として見ていた。自分は、もっと危ない人間に遭ったのではないか? いや、自分は助けられている立場では無いのか? という自問自答を繰り返しながら。
「大丈夫か?」
やがて、全員の始末を終えた男性は、レンガ造りの壁に体を預けて震えていた少女の手を引く。
「え、あ、……はい」
「怪我は?」
「あ、ありません」
僅かに震える体を抑えながら、少女は無理に微笑む。
「あ、有難う御座いました、この御恩は忘れません。それで、は……」
彼女の体が、ぐらりと揺れる。勿論、自分の意識に反してである。そのまま、滑らかな長い金髪を靡かせて崩れ落ちる様に倒れた。限界まで張り詰められた緊張の糸が、一気に切れたのだろう。男性が彼女の容態を確かめると、気を失っている事が解った。男性は、ほうっと溜め息を漏らす。
「……ヴィンセント、後始末を頼む」
男性が車に向かって言うと、「承知致しました、ボス」という声と共にチョコレート色のスーツ姿の男が運転席から出ていった。男性は後部座席に彼女を寝かせると、朝もやの中へと車を走らせていた。

[Andare#]

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