世界はキミのもんだ! 残された言葉の熱(中国、韓国) 「わっ!」 曲がり角を曲がろうとしたとき、向こう側から走ってきた誰かと思い切りぶつかった。 しかししりもちをついたのは私だけで、相手は少しよろけただけだった。 強かに打ち付けた箇所をさすりながら、少しはだけた着物の裾を直す。 「ご、ごめんある!」 何語か判らない言語を口にした相手は、私の両脇に手を差し込んで勢いよく立ち上がらせてくれた。 「あ、すみませ…」 恥ずかしさに頬を赤らめながらちらりと顔を上げれば、どこかで見た覚えのある一つに纏められた後ろ髪が目に入った。 東洋系の顔立ちに、独特な発音の口調。 そういえば、確か世界会議で―― 「ち、中国さん…?」 「あいやー! 桜あるか!」 そう言った中国さんの表情には焦りが浮かんでいた。 何事なのだろうか。尋ねようとしたと同時に、中国さんが走ってきた方向から声が響く。 「兄貴ー! どこですかー!」 中国さんの言葉とはまた違う印象の声。しかし異国の雰囲気を醸し出す音である。 それを聞いた中国さんはびくりと肩を揺らし、私の後ろに隠れようとする。 しかし中国さんは大きい。私の身体では隠れ切ることは出来ず、どう見てもはみ出していた。 小さく丸まるように肩を狭め、私の後ろからちらりちらりと前を伺っている。 「中国さん!? ど、どうしたんですか?」 「何も言わずに我を匿うよろし!」 有無を言わせぬ緊迫した声色に、思わず首を縦に振ってしまう。 自分の意志の弱さに泣きそうになりながら、私はふと声の聞こえてくるほうへと目を向けた。 どたどたと、走り寄る足音が近付いてくる。 「あーにきー…って、」 現れたのは、イタリアさんのような癖毛らしき髪が一本ぴょこりと跳ねている、民族衣装らしきものを身に纏った人だった。 日本ではあまり見ない、不思議な構造をしているように見える衣装である。 彼は私を見てぱちくりと瞬きをし、次第に表情を輝かせていく。 「あの…」 中国さんは私を頼ってくれている。その思いに応えようと、私はありったけの勇気を振り絞って彼に話し掛けた。 しかし反応はない。声が小さすぎたのか。 もう一度口を開こうとしたとき。 「き…」 「はい?」 日本語ではないが、何かを伝えようとしてくれているようである。 「き…っ」 「あ、あの…」 「着物の起源は俺なんだぜー!」 「え…!?」 そう叫んだ彼は、中国さんではなく私に照準を合わせて再び走り出した。 動揺した私は逃げるべきか否かの判断が遅れ、そのまま思い切り抱き付かれた。 「和服、たまんないんだぜ…!」 「あの…!?」 まさかすぎる事態に身体が動かない。 きゅう、と抱き締める力が強くなり、悲鳴が出そうになる。手の動きが少し怪しいのだ。 「何してるあるか!」 背後にいたはずの中国さんが私たちの間に押し入り、無理矢理引き剥がす。 今度は反対に中国さんに力強く抱き締められて、更に頭が真っ白になる。 「いいじゃないですかー、兄貴。着物美人の起源は俺なんだぜ!」 「明らか違うある!」 きっと鋭く睨み付けた中国さんは、先程とは反対に、私を庇うように背中に隠してくれた。 頼もしい背中に申し訳なく思いながらも、目の前のよく判らない彼をどうにかしてほしいと願う。 「桜は我のものあるよ!」 「え、」 期待していた言葉とは全く別の方向の返答をした中国さんに、思わず声が洩れる。 「こんな可愛い子、日本には勿体ないね!」 「日本の女ですかー。確かに勿体ない! 俺の家はいいところだぜ!」 「何ちゃっかりと自分の家を推してるね! 日本のものは我のものある!」 「え、え?」 いや、そもそも私は日本さんの女でも誰の女でもない。ただの日本国民だ。 それなのに、中国さんともう一人の方――この人もやはり国らしい――のものになりそうになっている。 「あの…私は誰のものでも…」 「だったら今から我のものある!」 「違いますよー! 彼女の起源は俺にある!」 「何あるかさっきから起源起源って! 桜のこと知らないくせに鬱陶しいあるよ!」 げし、こちらに近付いていた彼の顔面に中国さんの見事な蹴りが入る。 「桜は我が幸せにするね!」 何て大胆発言をしてくれたんですか。 残された言葉の熱 (言葉で伝えられるのは幸せなことです) ――― 韓国が途中で空気に…! アジア組はここらしかキャラがつかめん… [*前][次#] |