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見せられた恐怖
「お前が本当に怖いものはなんだるぁああ」

「(うるさい)」

しんと静まり返る船に札屋はモノノケと対峙した。絶望の縁に立たされた他の人間をチラと見て、ああやはり人間とは愚かだなと笑う。

「そうだな、アレだ、こんなチカラを持つ自分が一番怖いさ」

とたんにガタンと暗闇に落とされる。走馬灯のように今まで封じてきたモノノケ達が笑う。

「‥初めての体験だな此は」

「‥‥ユエ」

「?」

顔をあげると見知った顔、静かに落ちた声は自分を見下ろしていた。

「俺の手には負えん」

「そうか、」

「モノノケもお前も‥もうたくさんだ」

「ククッ‥」

カチンカチン‥カチン、男の持つ剣が三度鳴り目の前には金色の男が立っていた。

「‥斬るのか、私を」

「‥‥」

「それも、良いかもしれぬな」

望んでいた、ことかもしれない。いつか、札に取り込まれモノノケになってしまっては斬られるのが妥当、理も真も、この男なら直ぐに分かるだろう。

「愛している」

「は?」「だから斬れぬ」

「愚かな男だなお前らは」

「腹のややこを産んでくれ」

「ややこ?」

見れば腹は膨れていた。ゾッとして押さえれば男は優しく--見たこともないぐらいに優しく微笑んでいた。

「ユエ」「ユエさん」

「や、めてくれ‥」

背筋が凍る。何を言っているんだ、ややこをなんてこの男は自分も何をしているのか分からない、この感情が分からない、先程までなんともなかった筈なのに恐怖を感じた。

「く、すり、や」

「愛していますよ、ユエさん」

「やめ、来るな‥触れるな」

泣いていた、男に触れられた部分から悲しみが溢れて止まらない、苦しい苦しいと耳を塞ぐ。

「(ただのオンナに成り下がるのが、怖いのか)」

ふつ、と途切れる意識の中、海坊主の笑う声が響いた。


「ユエ」「く‥すりや」

「大丈夫ですかい?」

「あ、ああ‥」

愛しそうに抱き寄せるその冷たい体温に身震いをした。怖いのか、加世なら幸せだと言うだろう思うだろうソレを自分は恐れているのか

「すこし休んだほうが」

「何を‥言うか、札屋は年中無休だ」

キュッと薬屋の袖をつかむ、なんとか立ち上がりサラサラと紙と筆を取り出して呪符を描く。


愚かだ、な


(幸せになることが怖いなんて)


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あきゅろす。
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