(ボルカノ)
鍛錬をしに森に入っていた。騎士は剣を奮い術師は木陰に入り足を投げ出し、騎士の舞のような美しい動きに見惚れ、ボーっとして過ごしていた。
「(まさか、あのような堅物に好かれるとは)」
戦場での彼女を見て確かに美しいと思った、が、まさか好かれるとは思っても見なかったのだ。
「(‥俺も好くとは思わなかったがな)」
ぐるりと視界が反転し見上げた空は美しい蒼、目を閉じれば戦いの前に恥ずかしそうに「好き」だと告げたユエがいた。何も飾りがない言葉だったがその表情と仕草だけで充分だった。
「ボルカノどの‥?」
汗を拭い木陰にいる朱に近付く、眠ってしまったのかとあと一歩というところまで近付いて立ち止まる。
「‥ねむってしまわれましたか、」
かさりと音を立てユエは腰を下ろす、ボルカノはなるべく動かないようにしていた。バレてしまうかと思ったが意外と大丈夫なようだ。
「はやく南モウゼスに戻りたいです、ロアーヌではボルカノ殿の気配が薄れていて‥」
溜め息と思える吐息にボルカノは二人の距離が近いことに気付いた。緊張する、しかし起きることも今更出来なかった。
「‥‥、っ‥好い、て、おります、誰よりも」
陰り、少しだけ伸びたユエの髪が頬をくすぐった。唇に柔らかな感触が触れ、ボルカノはぼんやりと目を開けた。
「ほう、寝込みを襲うのが誇り高き騎士か」
「ボルカノどのっ‥お、きていらしたのですかっ」
反射的に飛び退く、その肩を掴んで引き寄せる。彼女の頬が肩に当たり痛みに顔をしかめた。離してくれないと分かると諦め、緊張し強張る身体から力を抜く。
「‥狸寝入りとは卑怯です」
「寝込みを襲うのは卑怯でないと?」
「そ、それは‥その」
顔を赤らめて俯いた。キュッと胸元の服を掴んで腕枕だと気付くとまた恥ずかしそうに唇を噛んだ。
「ユエ」「はい」
「モウゼスに帰りたいか?」
「そう、ですね」
「‥もう用事は終わったんだろう?」
「はい、いまはカタリナの相手をしてるだけで」
帰ろうか、と優しい声
額に口付けを受けたユエはガバリと起き出し跳ねるように去っていった。
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