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スタツア
そんなこんなでグリエ・ヨザックを追い掛けたスタツア(渋谷くんがそう言っていた)を成し遂げたユエは噴水で呆然としていた。

「ここはどこ、わたしは‥ユエだ」

ドタバタと足音が聞こえて、何やら美男美女に囲まれる。双黒やら陛下もいらしているはずやら猊下やらと訳のわからない単語が行き来している。

「あのう、」

「ああ、風邪を召されてしまうわ、早く湯浴みの用意を」

一般兵らしき人は即座に消える。灰色の渋い男性に抱き抱えられて、ユエは吃驚して暴れた。

「や、ちょ、大丈夫ですからぁああ」

手を振り上げて、夢の話を思い出す。左頬の平手打ちは求婚だと、地球での日常的行為がどういう意味になるのかを踏まえた上でしたほうがいいと魔女に忠告された。ハッとして大人しく男性に運ばれることにした。

***

「やあ、ユエ」

「む、むらたくんんん!」

「あれ、どうしてユエが来てんだよ」

「しぶやくくんんん!」

「それはおいおい説明するよ、うんやっぱりユエには黒が似合うね」

「‥だって、‥‥魔女だもの」

溜め息混じりに吐き出せば、一同(有利・ユエを含む)は驚きを隠せない表情だった。

「ちなみに記憶は?」

「まだ‥わかんない」

「ちょっと待てよ、ユエが魔女ってどういうこと?」

「渋谷くん、わたしにもイマイチ分かんないの」

「だから、おいおい説明するってば」

「漆黒の魔女、しかしその方は眞王陛下の命により大賢者様と共に姿を眩ませたと記されておりますが」

「厳密には、魔女が逃げたんだよ。眞王の子供を孕んで‥魔女は賢者に恋をしたから」

「‥でもはやく会いたいって言ってたよ」

「それは、最終的に魂が選んだのは眞王だからさ」

少しだけ、苦しむような表情だった。そんな空気を読んでユエは心配そうに村田を見つめる。

「村田くん、大丈夫?」

間接的な表現ではあるが、要は自分の記憶にある男女の泥沼三角関係を語らせられているのだ。彼らもヒトの子だったというワケさと肩を竦めて「それよりも魔女のことだよ」と笑った。

「まだ不完全だからね、ユエはきっと覚醒的な遺伝を持って産まれたんだよ、両親はどちらも‥薄いとはいえ魔女と眞王の血を引く魔族だった、そして眞王によって魂の器になった」

「勝手すぎませんか」

「それでも、新たな魔王と年齢を合わせたかった、覚醒する時期は二の次にね」

「‥地球の魔王が引き合わせたのでしょう」

「ちきゅうにも‥魔王がいるの?」

「ユエの知ってるヒトさ」

「‥‥‥コンラッド?」

「いえいえ、おれは違います」

「‥‥‥‥‥‥‥ボ、ブ?」

「御名答。‥と言っても選択肢は二つだったんだけど‥彼は長年に渡って血族探していた、よくやくみつけて、引き合わせてキミが産まれたんだよ」

「‥でも、早くに事故でって」

「二人はキミにチカラの全てを託したからね、寿命、といえばそうなるのさ」

「‥それから、すぐに保護されたのね、地球の魔族に」

悲しげな瞳が揺れた。言い過ぎたかなと村田が少女の名を呼ぶと「すっきりしたあ」と少女は万歳をする。

「訳のわからない事故死ってね、なっとくできなかったの!ボブもひどいよね、さっさと色々洗いざらい吐いてしまえば‥あんな表情することなかったのに!」

大人って馬鹿ばっかりだわとユエはケラケラと笑う。

「‥で?」
「ん?」

「わたしがここに呼ばれた理由は?‥あ、違うか私が呼ばないと自害するって言ったんだっけ」

「‥そんなこと言ったのですか?」

コンラッドは眉間にシワを寄せた。自害するだなんて冗談でもやめてくださいと真剣な眼差しで射抜かれて、ユエはヒクッと肩を震わせる。

「だって‥渋谷くんや村田くんは水溜まりに消えたのに、私は駄目だったんだよ?」

「そりゃあ、そればっかりは」

「‥だからね、お風呂に飛び込むことにしたの、大切なリボン巻いて‥魔女さんに“ユエなら行ける”って言われてたから」

「眞王陛下に認められなかったらどうするおつもりだったのですか?」

「“‥‥死んでやったわ”」

ゾクリとユエは自分の声に驚いた。喉を押さえて、キョトンと美男美女を見上げる。

「‥いま、の‥こえ」

「“彼女”だね、まったく相変わらず」

村田は「会いたいヒトって?」と話を変えてくれた。ユエはハッとしてコンラッドを見上げる。

「グリエさん、グリエ・ヨザックさんはいませんか!?」

「ああ‥ユエが会いたがっていたのは、やはりヨザだったのですね」

「やくそく、したんです。もしお嬢ちゃんが俺の世界に来られるなら‥「“俺が護衛に付きましょう”」‥!!」

コンラッドがニコリとユエに微笑みかけて後ろを指差す。すると見知った橙色が困ったように此方を見下ろしていた。

「ぐりえさ‥ん」

「お久しぶりですね、お嬢ちゃん」

「ぐりえさん」

足が根付いてしまったかのように動けなかった。一歩踏み出したい、駆け寄って抱き付いて泣いてしまいたい、そんな思いばかりが脳内を廻って‥しかし身体は動いてくれなかった。

「‥ユエ?」

(‥よばないで‥こないで)

「どうかした?ユエ?」

(惑わされてはダメ‥“また裏切られる”)

無表情に、ピクリともしない、ヨザックも不安に思ったのか腕を伸ばせば触れられる距離まで近付いて、目線を合わせるようにしゃがめばワナワナと震えていた。

「(あ、この光景は覚えがある)」

初めて出会ったその日の、まだ名も知らぬ少女だった頃のソレに似ていた。間違いでなければ、このあとに待っているのは‥‥
---バッチコーン!!


「こンの‥おおうそつき!迎えに来てくれるといったであろう、待っていた我が愚かだった!


一同・唖然。
(ユエさん魔女モード)


‥公然プロポーズ


「‥ハッ!ご、ごめっぐりえさっ」

「ったぁ‥今のは前回以上に、効きましたよ」


嬉しい誤算だと、ヨザックは痛む頬に切れた咥内の痛みすら幸せに思えた。




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あきゅろす。
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