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03
‥久しく見ないうちに魂は清らかなものになったわね

「(だれ‥?)」

私は貴女 貴女は私の魂を持ち得た

「(たましい‥?)」

今は分からなくても大丈夫、貴女は今まで以上に私に近いの、夢で会うと言うことは覚醒が近いと言う証

「(‥むかしから、へんてこりぃんな夢を見るのは貴女のせいなの?)」

霞のなかで声だけが聞こえる夢をユエは何度も体験していた。こうやって会話をするのは今回が初めてで、夢を見るのはボブやコンラッドに会う日の夜ばかりだった。物心ついた頃ソレに気付いて、何かを訴えるような声に早く答えてあげたいと思っていたのだ。

「‥どうして、貴女はだれなの?」

私は あの頃 魔女 と呼ばれたわ、大丈夫‥いまはまだその時じゃない。

「まじょ、じゃあ私も魔女なの?」

覚醒すれば、貴女は自分の居場所を見つけることができるの。愛しいあの方のところへ行ける。私を早く‥つれていって

「しんおうさま?」

そうね、きっと‥でも、そしたら‥あなたは‥ユエは‥

「えっ?なに?聞こえないよ」

目覚める時間なの、大丈夫、また会えるから


***

ヨザックは腕の中の柔らかな感触に意識が浮上した。目を開ければ身に覚えのない、双黒の少女がすやすやと寝息をたてていた。

「あ‥(夢じゃなかったのか)」

ゆっくりと肩まで布団を掛けてやる。ヨザックはマシュマロのような白い頬に指を滑らせて滅多に見ない黒い髪を指に絡ませる。

「‥ん」

潤んだ漆黒の瞳にヨザックはゾクリと背筋が粟立つのを感じた。ふっくりとした唇に噛み付いてやりたくなる。そんな衝動を駆り立たせる目の前の双黒の少女が自分に無警戒すぎるのが悪いのだと結論付けてもう一度髪を絡ませた。

「ぐりえ‥さん」

「おはようございます、お姫様」

「おひめ、さま‥じゃないよ」

魔女だよと言い掛けてユエは口を嗣ぐんだ。きっとボブやコンラッドの知り合いと一緒の空間に居るから“彼女”と会話ができたのだろう。そう言えば名前を聞き忘れてしまったと苦笑して、もこもこ兎の寝間着をヨザックの腕に押し付けるように抱き締めた。

「お嬢ちゃん?」

「誰かが‥いてくれるって、久し振りすぎて‥幸せなの、有り難うぐりえさん」


まだ寝惚けているのかなとヨザックは抱き締められた腕とは反対の腕で華奢な肩を抱いてやる。出会って間もない少女にこんなことをするなんてとロリコンの癖はないのだけどなと自嘲した。

「‥ぐりえさん、今日はわたしお出かけするの、だからね、申し訳ないんだけどお留守番していてね」

「はいはい、お家の留守はグリ江におまかせあれ」

「昨夜も思ったんだけどね、どーしてオネェくちょう‥?」

「そういうお仕事もあるのよ?」

「おもしろいねえ」

もそもそと起き上がり、寝間着を脱ぐような仕草を見せる。ヨザックは慌てて背中を向けて悲鳴をあげた。

「ちょ、ユエちゃんダイターン」

「えぅ?‥ああ、見ても面白くないよ?コンラッドもそう言ってたし」

「(隊長!アンタなにやっちゃってんの!?)」

「ひんそーなカラダだから?」

「充分魅力的‥いやいや‥グリ江困っちゃう!」

「ぐりえさん、おもしろいねえ」

そんなヨザックにお構い無く、ユエは下着姿のままクローゼットを開けた。黒のパンツにゆったりとした黒地のパーカーを着て、長い髪はゆるく纏めてコンコルドで留める。

「‥全身真っ黒ねぇ」

「黒が好きだから」

横からヨザックが覗いたクローゼットの中身は黒い服ばかりで「可愛いんだから色物を着なさいよ」とユエを小突く。

「‥ふふ、ぐりえさんは橙色の髪が素敵ですね」

「そーぉ?」

「お日さまみたい、‥ああいけない!遅れちゃう」

時計を見上げてユエは慌ただしく鞄を肩に掛けて洗面所に向かう。身支度を終えてヒョッコリと顔を出してヨザックを見た。

「なぁに?」

「ぐりえさん、こっちの電話にボブやコンラッドから電話がくるかもしれないので、‥知り合いなんでしょ?」

「あらぁ‥ユエちゃんはいいの?」

「私はこっちがあるから‥何かあったらね、えっと‥」

ポチポチとヨザックに使い方を教える。1番がユエの携帯で2番がボブで3番はコンラッドだと教えてもらった。

「簡単でしょ?だから、何かあったら掛けてくださいね」

「了解しました♪(つか隊長もこっちに来てんのかな)(隊長からの電話にはあんまり出たくねぇなあ)」

玄関口まで見送ると、ユエは何やらモジモジしている。「どうかした?」とグリ江のまま尋ねればユエはキュッとヨザックの手を握る。

「いってきます、早めに帰りますから」

「ああ‥いってらっしゃい、ユエちゃん」

ビックリして、反射的に言葉を返すとパアァッと花の咲いたような笑顔になる。「いってらっしゃい」が嬉しかったのだろう、この部屋にはユエしか居ないようだったから、きっと挨拶もままならなかったはずだ。

「(‥そういう俺も、こんな台詞久々なんだけどな)」


他愛のない挨拶でも


心がほんのり暖まるような、そんな感触にヨザックもユエも微笑んだ。


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