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籠の中の小鳥は考えた
最初の夜からだった。

情事を終え、二人で抱きあいながら眠りに落ちた。そのときは、初めて繋がれたという感動でいっぱいで、これ以上の幸せはないと満ち足りた気分だった。

しばらくして、別に何かあったわけではない。怖い夢を見たわけでもないし、暑すぎて不快だったというわけでもないが、私は目が覚めてしまった。
私の体は骸の手によってしっかりと固定されていて、目の前に骸の端整な顔立ちがある。いつも彼の顔は綺麗過ぎると思っているが、そのときの調子は違っていた。その眉間は苦しそうに歪んでいて、何かを絶えるような吐息が口からもれた。

そんな顔の骸は見たことがない。

私の中の骸は、怒ったり真剣な顔をすることもあるけど、大抵は儚げに笑っていて、苦しそうな顔なんて一度も見せたことはない。

彼の辛い過去は、前に聞いて知っていたがそれが今も彼を蝕んでいるのだろうか。いいや、きっとそれだけではない。彼の身のおく場所は、私が理解できないくらい厳しい場所なのだから。

「おや…深月、どうかしましたか?」

不意に骸は目を覚ますと、やわらかく微笑んだ。それまでの苦悶の表情は嘘だったように感じる優しい顔だ。

「何か、嫌な夢でも見たのですか」

寝起きだからだろうか。言葉がゆっくりと紡がれる。嫌な夢にうなされているのはそっちのくせに。

骸は私の背中に回していた右手を滑らせて、私の頭を撫でるようにした。左頬は手のひらに包まれて、心地よい熱が伝わってくる。微笑みながら撫ぜてくる骸の顔を見ていると、目頭が熱くなった。

「骸、」

「どうしました?」

「大好き」

そういってしがみついた私を、骸は抱きしめた。

「深月は甘えん坊ですね」

硬い胸板に鼻っ面を押し付ける。

「大好きだよ」

骸は少しだけ笑いながら、
「僕も君が大好きですよ、深月」
といった。

この人がいとおしい、なぜだか無性にそう思った。





今日も骸の顔には苦悩の表情が浮かんでいる。
何が彼にそうさせているのだろう。理由はわからないが、早く骸を悩ませるそれがなくなれば良いと思う。あれ以来、彼を起こすのは止めた。

「愛してるよ」

起こしてしまったときにはキスをねだる。それ以外は、もっと近くにと、深く骸にもぐりこむのだ。


彼が誰よりも幸せになれと、私は願わずには居られない。


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あきゅろす。
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