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2.1
列車の中には各車両に数人ずつしか人がおらず、一人残らずを閉じていた。
足をだらしなく広げるもの、椅子の手すりに寄りかかるもの、その間を音もなく優希は歩く。
列車の振動音と、時折聞こえるいびきだけが車内の音のすべてであった。

指令書にあった標的の顔を思い浮かべる。
黒髪の、若いころはそこそこの美形だったろうことが想像できる中年の男。性格、職業、趣味、何も知らない。指令書と一緒に、標的についての簡易プロフィールも渡されるが、任務に関係することしか書かれておらず、今回もざっと目を通したところ、深月の目をひくような記述はなかった。

といっても狙われるのだから、深月やさっきの男と同じ、暗い世界の人間なのかもしれない。もしくはその関係者の可能性もありえるが、


いけない。


深月は広がり始めた思考をとめる。
考えることは必要だが、詮索はしないに越すことはない。

相手がこれから死ぬ人間だとしても。

いや。
深月は訂正する。

死ななければいけない人間だからこそ、だ。



深月に与えられた命令は、その男を殺すことだけであった。


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あきゅろす。
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