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短編倉庫
暇を持て余した魔術師海馬が気まぐれに拾った城之内の話 (城海)
某タグが流行った時に載せた駄文



「なんだ貴様、汚い形で何故こんな所にいる」

そう言って親の元から逃げ出した城之内の前に現れたのは、冷たい言葉と同じく見下ろしてくる青い瞳を持つ…それは美しい男だった。




「海馬ー!飯だぞ!」

今日も慣れた家事を行い、朝の弱い育て親を起こす。
男の気まぐれで拾われて数年。
成長した城之内は家事の全く出来ない男の為に日々家事スキルを上げてゆく主夫となっていた。
当初から拾い主である其の男海馬は、奴隷としてこき使うつもりであったらしく出会った頃より更にぐうたら生活になったように思う。
だが城之内には好都合。
冷たい男のように見えた海馬の本質は寂しがり屋なのだと理解すれば、すっかり絆され今では愛しているといえる程になっていた。
それは海馬には伝えていない事だが、城之内は今の生活に満足している。

「……朝から無駄に元気だな」
そんな事を考えていると自室から出てきた海馬が不機嫌そうな顔でやってくる。
「おうよ!それが俺の取り柄だからな!ほら、冷めちまうから早く座れよ」
もう慣れた海馬の冷たい言葉をいなし、手を引いて席に座らせると温かい珈琲を渡す。
「おはようさん。今日もいい天気だぜ」
すっかり力では海馬よりも強くなった城之内は一連の流れから、最後にその身体を抱き込んで笑ってそう言った。
「…全く無駄に成長したな」
「小間使いが欲しかったんだろ?」
「違うわ、奴隷だ!」
「はいはい、ご主人様にぜったいふくじゅー」
「……頭の悪さが言葉に出てるわ、馬鹿者!」

そんな小さな幸せの日々。
城之内はそれだけで満足だったのだ、が。

その関係性が崩れたのはある満月の日。
それは禍々しいあかいまぁるい月を見た時、城之内は初めて自分が何であるか知った。


「っ…かいば……」

組み敷いた海馬の青い眼に映るのは正反対の真っ赤な眼をした自分の姿。
鋭く伸びた爪が掴んだ海馬の手首を傷付け、咄嗟に逃げる素振りをみせた身体を捕らえるために噛み付いたその首筋には鋭い牙の痕が残る。
乱れた彼の服も城之内がその爪で切り裂いた。
加減も出来なかった為に海馬の白い肌にも血が滲み痛々しい。

だが、それさえも今の城之内には興奮を煽るものでしかなかった。
最早止められない。
そう、城之内が微かに残った思考の中で考えた時。

「その程度か?貴様は自我の抑制も出来ない程愚かな男なのか、城之内」

「…か、い……ば……」

それは決して大きな声ではなかったが、城之内の動きを止めるには十分な言葉。

出会ったあの日から変わらない冷たさも感じる声なのに、真っ直ぐ見つめてくるその瞳の強さも変わらない彼。
その強さに憧れ、いつしか自分だけを見て欲しいと尽くしてきた愛しい人。

血が登り真っ赤だった視界が晴れれば、己のしたことが目に入った。

真っ白で美しい肌は無粋な傷痕と血に濡れ、海馬の顔色も悪い。

「あ…海馬っ!悪い、俺…!」
慌てて乗り上げていた細い身体から身を引こうとした城之内だったが、腕を掴まれ止められる。
「そんな言葉は後でお仕置きと共にたっぷり聞きてやる。今言うべき言葉は何か…分からないのか?」

城之内のこの行動が『捕食』ではないと海馬は気付いていた。
そして、その為のチャンスを与える意味も城之内は理解した。
だって拾われてからずっと彼を見てきたのだから。

「海馬、俺はお前が好きだ。本能のままにお前を抱こうとした、でもそれは海馬が好きだから…」

その言葉に海馬は表情を緩めると手を伸ばす。
いつの間にか逞しくなった男の顔に触れると、その頬を抓り上げて笑う。
「そんなもの、とっくに気付いていたわ……あのままアホ犬のままに襲ってきたら消し飛ばしていたぞ?」
「アホ犬…って………ひでぇ」
「犬だろ?耳も尻尾まで生えてるしな。まぁ、そんな事は予想していたが」
「……あのさ、本能のままに襲わなきゃ………許してくれんの?」

海馬の遠回しな言葉を城之内は理解出来る。
それでも聞かずにはいられなかった。
愛しい彼も同じ気持ちなのか。

「…そうだな……普段の貴様なら、まだマシな男だな」

「なんだよ、それ……ったく、素直じゃない奴!」

「なら、止めるか?」


挑発的に笑う海馬は彼らしい。
結局城之内は言葉では彼に勝てないのだ。
「止めるわけないだろ!素直にさせて本音言わしてやるからな!」
「ふ、貴様に出来るのか?城之内?」
「こんにゃろ!!」


暇を持て余した魔術師と半人前な狼男の物語。

その夜拾い主と拾われ子の関係は変わり、それでも言葉を与えられたかは………彼等しか知らない。





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あきゅろす。
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