ワールドアパート 「一体、何をしているんですか君は……」 ザアザアと降り続ける雨音に交じって聞き覚えのある声が降る。 降り出した雨の中、先刻なりふり構わずに駆け出し、煙るような街中、フラリと立ち入った路地裏雨に打たれるままにしゃがみ込んでいる所を見つけられてしまった。 「む…くろ…」 見上げた綱吉の目には、同じように頭からずぶ濡れになった六道骸が呼吸も荒く、少し怒ったような顔で立っていた。 「何で……」 「…貴方が逃げるから追ったまでですよ」 差し延べられた手を取ると、綱吉と同じくらいに冷たい手をしていた。 「骸の手冷たいな…」 「貴方もね……」 降り続ける11月の雨は容赦なく二人の体温を奪っていく。 「上等なスーツが台なしですよ…綱吉くん…」 「いいよ…スーツくらい……」 「とりあえず、どこか入りましょう…風邪引きますよ」 「……うん……」 綱吉の手をとり、降りしきる雨の中近くの安ホテルへと身を寄せる。 部屋に入っても上着すら脱ごうとしない綱吉に、苛立ちを隠さないまま骸は濡れたジャケットを強引に脱がし脱衣所に放った。 まだ俯いて立ち尽くしている綱吉を余所に、シャワーを全開にし風呂に湯をはる。 室内とは言え芯まで冷える雨の冷たさに、体温も低下しているはずだ。 「いい加減にしなさい!沢田綱吉!」 風呂にも入ろうとせず、心もどこか置き去りにしたような彼の手首を掴み、服のままバスルームへと入る。 雨音とは違うシャワーの音、温かな湯気、頭からかぶせられた温水に意識も覚醒し始めた。 「…っ……骸、俺……」 「貴方は悪くない。」 「……………」 「貴方が殺らなければ、あの時死んでいたのは貴方です」 ゆっくりと言い聞かせるように綱吉に告げる。 「それを自分のせいで、などと考えるなんて愚かにも程がありますよ…」 「………って、彼らにだって………大切な人や家族がいたはずだ……」 ズルズルと背中を滑らせ、床へと座り込む綱吉にシャワーの湯が容赦なく降り注ぐ。 「…まだそんな甘い事をっ!」 座り込んだ綱吉のネクタイを掴み立たせると、さらに上向かせる。 「いいですか…貴方が選んだこの世界は、こういう世界なんですよ!あの時貴方が自分の生を選ばなければ、今この場所に貴方は居なかった……わかりますか?」 タイル壁に押し付けたまま、綱吉に詰め寄る骸の方が苦しそうな顔をしている。 「貴方がこの世から消えて僕が悲しまないとでも思っているんですか…」 「そ……んな……事、考えた事ない…お前…が?」 「貴方は………酷い人だ」 「…んでお前が泣きそうな顔してるんだよ……」 「知ろうともしないくせに…聞かないでください…」 「ごめんな………今は赦されたくないんだ……だから……」 骸をも傷つけて、自分も傷を負う。 どう言い訳した所で還る命じゃない。 「………本当に……愚かな…」 「お前こそ」 降り注ぐ湯でさえも温める事の出来ない体を、傷を深めるように唇で繋ぐ。 「………っにすんだよ………」 「……契約ですよ……」 「…っ……」 「貴方が二度とその手を血に染めない代わりに………僕が貴方の剣になりましょう。」 「……何…言って…」 「貴方の代わりに血に染まる僕に傷を負い続けなさい。」 そう告げる言葉はまるで、自分を守ると言っているように聞こえる。 「…この契約はいつまで…?」 「僕か貴方が死ぬまで、ですよ………一生傷を負えます。良かったですね…沢田綱吉」 「……こんな茶番……笑える…」 「…僕もです…」 目を閉じた綱吉の耳にはザアザアと降り注ぐ湯の音と、唇に触れる暖かな温もりがいつまでも残っていた。 終 あとがき 久しぶりの6927更新★ この二人はこんな感じがいい。ラブより痛みたいな……6927書きやすいなあ(笑) シャワー出しっぱなしでキスとか大好き。 甘くないけどね! [*前へ][次へ#] [戻る] |