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獄と女の子にヤキモチ綱
ふとした瞬間に気づいた。

理科の実験に使うプリントを係が運べと言われて、クラスの女子が重いプリントを一生懸命理科室に運ぼうとしていた時、一瞬躓きそうになったその子の肩を片手で支えた獄寺くんが、さりげなく…本当にさりげなくプリントを持った時。

「…っぶね、大丈夫かよ」

「う…ん、アリガト獄寺…くん」

そのまま赤い頬で立ち尽くす女子を残して獄寺くんが理科室へと消えて行った。

彼女と獄寺くんの身長差…獄寺くんの丁度胸元くらいに頭があって、二人並んだ姿はとても自然だった。

小さくて、きっと柔らかくて、ギュッと抱きしめたらすっぽりとおさまるであろうことは想像にかたくない。

女の子とは本来守られるもので、その立場と自分が同等であることが急に…思い上がりのようだとおもった。

守られたいわけではない。

ただ、あのまだ成長段階の、けれどしなやかな筋肉のついた胸元に抱きしめられる心地よさをもう手放す事なんて出来ない。

長い腕で巻き込むように抱きしめられた時、とてつもない安心感に溺れそうになる。

本当ならば彼も柔らかく甘い香りがする女の子を抱きしめていたっておかしくない。

彼はあんなにモテるのだから。

自分なんかより余程…

落ち込んだ思考回路がグルグルと回りだして、目頭が熱くなって急いで下をむいた。

ザワザワと騒がしい教室内で、まるで孤独だった頃のように一人ぼっちな気持ちだった。

机の前に誰かが立ったと気づいたけれど、この情けない顔を見られたくなくて俯いていた。

「…十代目」

理科室に消えた獄寺くんの心配そうな声がして、思わず弾かれたように顔を上げた。

「っつ…獄寺くん…」

「…なんて顔してんですか…」

俺を見た獄寺くんの綺麗な眉が潜められて、ぐっと手を引かれて立ち上がった。

「来てください」

「な…に…」

「いいからっ」

切羽詰まったようなその声に、俺はなすすべもなくついて行くだけだった。

バタンと音をさせて、空き教室の扉を閉める。ついでに内鍵をガチャリと閉めた音がしてハッとした。

「何が十代目をそんな顔にさせたんですか…」

教室に入っても俺の右腕を掴んで離さない獄寺くんは、俺の顔を真っすぐと見た。

「……」

「十代目!」

少し荒いその声に、ビクッとしながら見上げてようやくと口を開いた。

「…さっき獄寺くんが、女の子のプリントを持ってあげた時…」

「はい」

「とても自然だなって…思ってね…女の子は…小さいし、本当だったら獄寺くんは………」

「はあ〜〜〜……」

そこまで話した俺の頭上からため息が漏れた。

「…っんだそんな事っすか…」

安心したように緊張を崩した獄寺くんが、ギュウッと俺を抱きしめた。

「獄……」

「んな心配や不安いりませんよ十代目…」

「…っ」

「俺は何より沢田綱吉と言う人に惚れました。だから、十代目がそんな顔しないで下さい…」

俺を抱きしめる腕が強くなって、頬を獄寺くんの長い綺麗な指が撫でた。

頤を指が掬いあげ上向かされると、温かいキスが降ってくる。

ギュッとされているからお互いの拍動が伝わって、また目頭が熱くなる。

何度も触れるような口づけが甘く深いキスにかわり、ピタリと隙間なく合わさった唇が思考を蕩けさせていく。

「ん…っ」

擦り合わされた舌が口内を蹂躙して貪るように犯される。

息継ぎもままならないそれに、酸素を求めて喘いだ頃、再びギュウッと強く抱きしめられた。
首筋から香る煙草と香水の匂い、熱いくらいの体温が与えられて幸福感に満たされる。

「十代目…」

「あ…りがと…獄寺くん」

「も、不安になんてならないで下さいね…。まあなっても、今みたいに何度でもわからせますけど」

ニッといつもの笑顔を見せて獄寺くんが笑った。




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