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のど飴
授業中小さく咳をする大切な人を、そっと振り返った。
下を向いて手を口にあて、ゴホゴホとなるべく控えめに咳こんでいる。
国語の授業中、盗み見たその人の顔は咳こんだ為かほんのりと頬が赤くなっていた。
「すいません、沢田さんが辛そうなんで保健室行ってきます」
獄寺はガタンと椅子を引いて、長々と教科書を読んでいる教員を振り返りもせず、綱吉のそばまで近寄った。
「大丈夫ですか?」
授業用に眼鏡をかけたままだったが、それよりも綱吉が心配だった。
「獄寺くん…」
少し驚いている綱吉の手を取り、慈しむような優しい仕種で立たせると、ふらつく体を支えるように腰に手を回した。
ギュッと体を支える逞しいけれど細い腕にさらに顔を赤らめた綱吉は、ごめんねと呟きそれでも辛いのか獄寺にそっと身を預ける。
その様子に教師もその場にいた生徒も何も言えずに、二人を見送った。
さらに静まり返った教室を後に、シャマルしかいない保健室へと綱吉を連れて来た獄寺だったが、保健医は生憎の外出中だった。
「ったく、使えねぇ奴だ!」
恐らく発熱もしているだろうその体を、真っ白で固めなベッドへと寝かせる。
「十代目……」
「俺は大丈夫だから、獄寺君は教室に戻って?」
熱のせいか、潤む目を獄寺に向けて少しだけ微笑む姿に左の胸がギュッと痛い。
「俺なら大丈夫です。貴方の側にいます」
近くの椅子を引き寄せて座り、綱吉の手を握る。
発熱しているのに、その手はヒヤリと冷たかった。
「獄寺君、温かい」
「俺の手で良かったらいくらでも暖房代わりにしてください十代目…」
「ん…ありがとう」
午後の陽射しが保健室を照らして、いつもより暖かいその空気に気持ちも落ち着いていく。
けれど横になった綱吉はしばらくするとまた、咳をしだして辛そうに見えた。
「少し起きてた方が楽ですか?」
隣のベッドから枕や薄い毛布を取り、綱吉を起こすと丸めて背中に入れて支えにする。
それに身を預けると幾分呼吸も楽になったように、ふっと息をした。
いつも獄寺に向けられる大きな茶色の瞳は俯きかげんで、今は獄寺を映していない。
やはり胸のどこかがズキズキと痛くて、そこをそっと押さえても和らぐ事のない痛み。
しかし押さえた胸のポケットに異物感を感じて獄寺は思い出した。
朝、女生徒から飴を貰ったのだ。
それを思い出し探ると、一粒。
袋にはのど飴の文字が書いてあった。たまには役に立ちやがるな、などと胸中で思い、包みを破ると綱吉に差し出した。
「?あめ?」
「はい。そう言えば今朝クラスの奴に貰いました…。咳辛そうで…いかがですか?」
「いいの?」
コトリ、と首を傾けて尋ねる綱吉に獄寺は頷いた。
すると、そっと口を開いた綱吉は唇を寄せ獄寺の指から直接その飴を掬い咥内へと転がす。
獄寺はその様をスローモーションのように眺めて、途端指先に触れた熱い温もりにゆっくりと瞬きした。
「薄荷だ…」
「薄荷ですか…」
驚いた獄寺は意味深に見上げてくる綱吉の視線から目を逸らせずに、鸚鵡返しで呟いた。
「美味しいよ、ありがとう」
ふわりと笑った綱吉は、また一つ咳をした。
その姿に吸い込まれるように、獄寺は綱吉の横に手を付くともう片方の手で眼鏡を外し上体を屈めて綱吉に近づく。
ふと見上げた綱吉が、眼鏡を外した獄寺を見て柔らかく笑い目を閉じた。
その仕種にますます理性を奪われる気がしながらも、まだ飴の残る唇に自分の唇を重ねた。
「……ンッ…あ、ダメだよ獄寺くん……」
口づけが深いものに変わる瞬間、そっと獄寺の肩に綱吉が触れた。
「……風邪、うつしちゃうから…」
「構いません…」
すでに熱を孕んだ獄寺の目に綱吉は仕方なさそうに笑って、知らないからねと呟く。
やがてその音は獄寺の咥内へと吸い込まれて消えていった。
終
獄寺が女子から貰った飴に、少なからず妬いたツナたん。
積極的に指から飴を舐めるとこが書きたくて始めた突発文。
タイトルと最早何の関係もないとか言わない。
のど飴はハチミツ檸檬か、カリンのど飴、薄荷がスキ★ちなみに今私も子供も咳が止まりません(^0^)/
2011 1/20
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