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夜灯祭(よとぼしまつり)5
「見せて下さい十代目……」
「…っゃ………」
「こんなに赤くなって」
パシャンと響く水音
「冷たっ…」
「冷やさないと、腫れますよ?」
境内に着くと、裏手にある水場を借りて、十代目の挫いた足首を水で冷やす。
早く冷やさなくては、とそこばかり気にかけていた思考が落ち着くと、十代目を仰いだ。
見上げた先大きな岩に腰掛け、少し開いた着物の裾から伸びた白く細い脚。
足首を無遠慮に掴んだ俺の指先
間違いじゃなく、夜の闇でも見てとれる、紅く染まった十代目の頬と潤んだ蜂蜜色の大きな瞳………
「あ………すみませ…」
慌てて離した指にバランスを崩した十代目が後ろに倒れて行く。
「っわっ」
ドサッと倒れる音
十代目の頭を守ろうと差し込んだ右腕に痛みが走った。
「獄寺く……」
目を開くと岩の上に上体を押し倒す形で十代目を組み敷いていて、僅か開いた脚の間にある自分の身体と、驚きで見開かれた揺れる瞳。
腕の痛みなんて、飛んでいた
倒れた勢いで乱れた着物から覗いた白くきめ細かい肌、吐息が触れ合うほど近い唇
もう理性なんて残ってなかった
「獄…」
頭の下に滑り込ませた腕を引き寄せるように抱きしめた。
しめ忘れた水道から流れ続ける水の音
ゆっくりと背中に回される十代目の細い腕
「俺……獄寺くんが好きだ……」
やっと赦されたかのようにギュッと強く抱き着かれ、その暖かい身体を強く強く抱き返した。
「ずっと…言えなくて……俺………」
家を出るあの時も何か言いたげだったのは、この事だったのか……
「俺も…じゅ………いえ、沢田さんが、」
まだドキドキと煩い心臓の音が抱きしめて離さない十代目に伝わるといい
「他の何よりも大切で、貴方と言う方が、とても愛しいです」
白い首筋に顔を埋め、言えなかった言葉をやっと伝えられた喜びを噛み締めるように優しく囁いた。
「………っ」
「獄寺くん……俺凄く嬉しい」
少し躯を離して見た十代目は、優しい大空の橙色のオーラを纏って、ふわりと笑った。
どんな暗闇でも
この人を見失う事などないのだろう
想いが通じ合う事のなんて幸せで
なんて甘美な
白い腕を伸ばした十代目が蛇口を捻ると止まった水の音に静けさが戻ってきた
「好き」
凛とした声で闇を払うように届いた愛の言葉と、優しく暖かい温もりが唇に触れた。
離れていく唇を惜しむように追いかけ、再び捕まえて優しく噛(は)む
「…んッ……」
暗闇に燈された橙の焔と甘く漏らされた十代目の吐息が、閉じた目と寒空に晒された耳にゆらゆらといつまでも残った。
fin
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