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夜灯祭(よとぼしまつり)3
「今日ね並盛神社で夜灯祭があるんだ。」
「よとぼしまつり?」
「うん。新年の行事で、水に浮かべた蝋燭の灯りが参道の両端に並べてあって、その灯りだけで歩くんだ。」
「神社なのに、随分ロマンチックな行事ですね」
「あははっそうだね!」
「あ、それで着物ですか」
「着れる?」
「いや…着たことないッスね…流石に」
「だと思って母さんに教えて貰ってきた!」
「ここで着替えていいかな?一緒に見ながら着付けするから…」
「えっ?!」
「だめ?」
小首を傾げて、そんな可愛いらしい顔で見つめないで下さい十代目えええ!
「いや…だめじゃないッス……」
「じゃあ、脱いで?」
もう俺を殺す気かこのお方は……
覚悟なんてものは、普通同性なんかには必要もないのだが、事のほか何よりも大切で敬愛する十代目の前で、しかも二人きり……意識するなとか無理だ……
まあ考えても仕方ない、覚悟を決めて、着ていたパーカーをバサリと脱いだ。
「やっぱり獄寺くん、同い年とは思えない体つきだなあ……」
背中から着物を羽織らせながら、腕を通して前へ回る。
「あ、下も脱いで」
腕を通した所で、当然だよなと思いつつカチャカチャと片手でベルトを抜き去り、パサリと横のソファーに放った。
「丈は大丈夫かな。うん、そう前を合わせて、そうそう」
首筋にフワフワと当たる髪がくすぐったくて、胸元に寄せられた手も熱くて、このまま抱きしめてしまいそうになる。
拷問………この状況まさにピッタリだよな。
「はい!できた!」
触れそうな程すぐ近く下から十代目がニッコリと笑った。
「あ…りがどうございます…」
良く持った俺の理性。
じゃあ着替えさせてね、と十代目が背中越しに脱ぎ始めて、俺はまた慌てた。
「俺貧相だから見ないで!」
振り返ろうとした俺に可愛いらしく釘をさす十代目、流石ッス………
チラッと見えた白いうなじに目眩がする。
聞こえる衣擦れの音がやけに大きく聞こえた。
「いいよ!」
向き直ると、キチンと着物を着た十代目が、いつもより倍の渋さと可愛さで、今すぐにでも押し倒してしまいたかった。
そんな事、出来ないけれど。
「カッコイイですっ十代目!」
「ありがと!獄寺くんも、その、凄く似合ってて、いつもの君じゃないみたいだよ」
照れ臭そうに笑う十代目が先を行き、下駄をはいて玄関を出る間際、何か物言いたげな視線を送って来た……のは気のせいだろうか………
「行こうか!」
「はいっ」
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