本棚 赤の名を持つ彼を探して(19) 「寒い…」 マキがカタカタと震えている。口から出る息が白い。 シロガネ山の頂上付近は気温が低く、一部の時期を除き、常に雪が降っているのだ。 「ほら、やるよ」 グリーンがマキに使い捨てカイロを渡す。 「あ、ありがとうございます」 マキがふんわりと柔らかい笑顔でお礼を言う。言うならば天使の笑顔。 「いい。使い捨てだしな」 一瞬マキに見とれたグリーンは、少し顔を赤くしながら目を背けた。 頂上はすぐそこ…。だが、みんな休憩をとっている。野生のポケモンとのバトルの連続のせいで全く休憩が取れなかったため、全員クタクタだからだ。 「寒い…。ジバコイルぅぅ…。げんきのかけら…。寒い…。げんきのかけら…。寒い…。ジバコイルぅぅ…。げんきのかけら…。寒い…。げんきのかけら…。寒い…」 ついさっき、ジバコイルが瀕死になった。ミキがぶつぶつと下を向きながら同じ言葉を繰り返す。寒さで歯がぶつかり合いガチガチいっているため、一種のホラーだ。 「みー怖いよ!!」 リカが恐怖でミキから少し距離をとる。 「…そうだ!はいですぅ」 ユウリがミキに何かを差し出す。ミキが渡されたものをみると…。 げんきのかけら ×1 「…………………何で持ってんの?」 「そこの岩のそばに落ちてたですぅ」 ユウリは後ろの方の岩を指差す。 「うちも欲しい!!」 ダッ 「リーダー、そんな今まで見たこと無いような素晴らしいフォームの走りで行ったってもう無いですぅ」 「チェッ」 「そんな『使えねぇヤツ』って顔を私にされても困るですぅ」 「だってさぁ〜。みーばっかりずるいよ!」 リカが頬を膨らませてブーブー言ってくる。 「みーは瀕死寸前のロトムしかいないからですぅ!リーダーはまだリーフィアとマルノームがいるじゃないですぅか!」 「そうだけど〜。むぅ〜」 理由を聞いてもまだ不機嫌顔のリカ。 「……リーダー、我が儘はだめ」 サツキにぺちっとデコピンされた。 「あうっ。痛いじゃん!」 リカ、涙目。 「お前な……もっとリーダーらしくなった方がいいんじゃねぇの?デコピンぐらい大したことねぇだろうが」 それを見たグリーンがそう言うと、リカが更に不機嫌になった。 「どういう意味だよそれ。」 「そのままの意味だ」 デコピンで泣く。←ダメじゃね? 「…………酷い」 リカはぺちぺちとグリーンを叩いた。 「もう!休憩終わり!!さっさと行くわよ。リーダーも泣かない!」 ユウナが立ち上がった。 「そうだよリーダー!ジバコイルが復活したしさ、さっさと行こうよ!」 げんきのかけらをジバコイルに使ったミキ。さっきと変わり、いつもの状態に戻った。 「みーがイキイキしてる!ついさっきまで死んだような顔してたのに!」 「口にキムチ詰めるぞ!!」 「それは勘弁して!!」 この通りいつもの状態だ。 「……せっかく、今ポケモン出てこないんだから、行こう」 サツキも立ち上がる。 「ほら!さっちゃんも言ってるでしょ!ちゃっちゃと歩く!!」 ユウナがリカとミキの背中を押す。 そして進みながら、他の人には聞こえないように話かけた。 「(さっちゃん…グリーンさん…、気付いてる?)」 「(ああ)」 「(……ん。手持ちのポケモンの事、だよね?)」 リカ達は、三人が話している事に気がついていないようだ。 「(さっきからずっと落ち着かなくてな。ボールの中でガタガタいってる)」 「(あたしのポケモン、上に向かってなんか吠え出しちゃって…)」 「(……強い気配を…感じてるみたい)」 「(ああ、……多分……レッドだ)」 「(……やっぱり…)」 「(バトルにはならないだろうけどさ、いざって時は…)」 「(俺か、お前ら二人が…だな)」 「(了解。まっかせといて!)」 「(……あんたが負けたら…ね)」 ☆ ☆ ☆ 「来る…」 この前来たあの男は、弱すぎだった。それよりも前に人が来たことはあったけれど…みんな弱くてつまらない。 今度は強い人だといいんだけれど。 「準備はいい?」 僕は腰のモンスターボールに話しかけた。 ☆ ☆ ☆ つづく [*前へ][次へ#] [戻る] |