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逆転裁判SS
さよなら大好きなひと
一緒に歩いたあぜ道。
よく2人で夕ご飯の相談しながら帰ったよね、楽しかった。
一緒に遊んだ草原。
2人して高い木のてっぺんまで登っちゃって、下りれなくて大変だったね。
一緒に帰った夕焼けの坂道。
転んで膝すりむいて泣いてたらおんぶしてくれたね。すごく、あったかかった…。

2人一緒にここで過ごした時はずいぶん昔のはずなのに、いろんなところにいろんな思い出がある。

お姉ちゃん…

ほんとに死んじゃったの?
あたし、まだ信じたくないよ…。

さよなら大好きなひと


抜けるように青い空から差す日差しは残暑そのもので、9月といえどまだまだ夏だ。
ジワジワと蝉の鳴くなか、あたしは川沿いの道をとぼとぼと歩いていた。
「……なにやってんだろ、あたし…」
今日はお姉ちゃんのお葬式。あたしは唯一の肉親としてあの場にいなければいけない。
それなのに、あたしはみんながいる場所からどんどん反対の方へ向かっていた。
行く宛がある訳ではない。ただあの場にいたくなかった。
お姉ちゃんを焼いている。あの場所には。
あそこから逃げたって何も変わらない。お姉ちゃんは死んでしまったし、おばさま達は怒ってるだろう。
何も変わらない。それはわかってる。
ふと、日が照りつける道の端に蝉の死骸がコロリと転がっているのが目に入って、あたしはそれまで我慢していた何かが、うわっと溢れでるのがわかった。
顔が歪んで涙が蝉の近くにぽたぽた落ちる。
命って、なんて脆いものなんだろう。
昨日まで、ううんきっと死ぬ直前まで、この蝉は鳴いて飛んで生きてた。
お姉ちゃんだって。あたしと電話で話した時はちゃんと生きてた。息してた。笑ってた…!
お姉ちゃん。体はまだここにあるのにお姉ちゃんはいない。どこいっちゃったの?会いたいよ…!
歩いていられなくなって、川縁に座り込んだ。膝を抱えて顔をうずめて、溢れる涙が枯れるのをただ待つけれど、頭の中はどんどんごちゃごちゃしてくるばかりで涙をとめることは出来なかった。
「…真宵ちゃん」
少し離れた所から声が聞こえて、あたしは思わず泣き声を殺した。
声の主はすぐにわかった。お姉ちゃんのお弟子さんの、なるほどくんだ。なんでここに?こんな顔見られたくないよ。
「…ごめん。ちょっと心配で…ついてきた」
と言いながら、なるほどくんはゆっくりこっちへと歩いてくる。
「……辛いだろうけど…千尋さんのところへ戻ろう?」
あたしは声を出せなくて、膝を抱えた腕の中で首を横に振った。
なるほどくんはあたしを責めずに頭にポンと手を置いた。
「………前にさ」
「………?」
「…千尋さん、前に話してたよ。真宵ちゃんのこと」
「………」
鼻をすするだけのあたしを気にせず話し続ける。
「自分には年の離れた妹がいて、とっても姉思いの良い子で…。妹の笑顔を見るだけで、よしまた頑張るぞ!って思えるんだって」
「……ふぇっ…」
お姉ちゃん…!再び涙が溢れだす。
「…千尋さん、1人ぼっちで空にのぼるの、寂しいんじゃないかな」
「……さびしい?」
「うん。…真宵ちゃんが見ていてくれたら、安心するんじゃないかな」
「あたし…が…?」
あたしにそんなこと出来るのだろうか。
お姉ちゃん、まだここにいるの…?
溢れる涙を袖で拭って初めて顔をあげると、いつもの青いスーツじゃなく黒い喪服のなるほどくんが優しく見下ろしていた。
この優しい目は、どこかで見たことがある…。
「はい、ティッシュ」
「…ありがと」
なるほどくんに手渡されたティッシュで思い切り鼻をかむ。鼻はすっきりしたけど、泣きすぎて頭が少しぼんやりしていた。
「戻れそう?」
「…………ん」
よろよろと立ち上がろとするとなるほどくんが手を差しのべてくれた。
その手にそっと手を伸ばす時。ふと、小さい頃道で転んで泣いてたあたしにハイ、と手を差しのべてくれたお姉ちゃんの顔を思い出した。
あぁ…そうか。さっきのなるほどくんは、あの時のお姉ちゃんと同じ目だったんだ…。
なるほどくんの中に、お姉ちゃんはいるのかな。あたしの中にも…。
「真宵ちゃん?」
手を浮かせたまま止まったあたしを心配そうに見るなるほどくん。
「……んん、なんでもない。戻ろ、なるほどくん」
「うん」
なるほどくんの大きな手をつかんで立ち上がる。
お姉ちゃんはここにいる。あたしは繋いだなるほどくんの手とあたしの胸をそっと抑えて、お姉ちゃん、と呼びかけた。


《終》

真宵ちゃん、辛かったと思います…。
お母さんは生きてるとしても顔も覚えてなくて、千尋さんは唯一の家族だったんだし。
最後の通話録音で泣く真宵ちゃんに泣く私。

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あきゅろす。
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