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逆転裁判SS
きみの名前を
「でも、でも、絶対大丈夫だと思うよ!」
「何言ってんの、そんな赤い顔して」
「なるほどくんが変なことするからだよ!」
「なんだよ変なことって…ほら早く服脱いで。汗かいてるだろ」
「このままで大丈夫だってば」
「え、そのまま寝る気なの?」
「…寝ないもん」
「コラ。駄々こねないの」
「……痛いのやだもん…」
「痛い?」
「…アレ、刺される時痛いんだもん」
「ああ、アレ?大丈夫だよ、今ちゃんと休めば刺されないから」
「………ほんと?騙してない?」
「ないよ。だからパジャマに着替えてちゃんと寝るんだよ?でないと速攻病院連れてって注射してもらうからね」
「ひゃわわわちゃんと寝るっちゃんと寝るから〜!」

きみの名前を


のどかな平日の午前中。
成歩堂法律事務所は今日もいつものように営業しているはずなのだけど、10時をまわった今もあたし達はまだなるほどくん部屋にいた。
原因はあたし、のようだ。
まったく。ちょっと顔色悪かったからって、よりによって万年健康少女のあたしを捕まえて「絶対熱ある」はないよなるほどくん。
あんまりしつこいからしぶしぶ着替えてベットに寝て、体温を計った。
絶対ないない。だってあたし最後に熱出したの確か幼稚園の時の焼き芋パーティーの日だったんだから。あーあの焼き芋惜しいことしたなぁ。やっぱり蒸すのと石焼きでは全然違うんだよね、甘みがもう天と地の差で…

ピピピッピピピッ

「見せてごらん」
「はい。どう、どう?ないでしょ?」
「………39度3分」
「………あれ?」
「ものすごく高いじゃないか…!」
「でも…そんなに具合悪くないよ?ちょっとノド痛くてちょっと体がだるいくらいで…」
「今はそうでも後々辛くなるんだよ。あぁ無理やりにでも寝かしつけて良かった…」
「あたし大丈夫だよ?あっわかった、その体温計壊れてるんだよ!だってそれなるほどくんちのブラックホールから出てきたんだから!」
「うちのクローゼットはブラックホールじゃないぞ。まったく…そんな具合悪そうな顔して言うセリフじゃないよ」
「具合、悪そう、に見えるの…?」
「そうだよ。ぼくちょっと薬局行ってくるから。ちゃんと寝てるんだよ」
「え、事務所は?」
「真宵ちゃんが落ち着いたら行く」
「な、だ、ダメだよ、あたし本当に大丈夫だから事務所行って?」
「心配しなくて大丈夫だから、ほらもう横になって」
起きていた半身をぽすんとベットに横たわせると、なるほどくんが布団を口元までしっかりかけてくれた。
「すぐ戻るから」
そう言って前髪をくしゃっとかきあげておでこにキスしてから出かけて行った。
あたしはまだ納得出来なくて、ちょっと抜け出してテレビでも見ようかな、とチラリと考えたのだけど、なるほどくんの心配そうな顔とか口元までかけてくれたお布団がなんだかくすぐったくてあったかくて不思議な感じで、もうちょっとこのままでいようかな…と思えてきた。
頭がぼんやりする。あたし本当に熱あったのかぁ…。
確かに具合はちょっと悪かったけど…なるほどくんにはバレちゃうんだなぁ…。
看病されるのなんて、幼稚園の時以来だよね。懐かしいな…あの時は…お姉ちゃん…が……看て…く れ て………
意識がだんだんぼやけていった。

 * * * *

「ただいまー」
寝てるであろう真宵ちゃんを起こさないように静かにドアを閉める。
薬局の袋をテーブルに置いてそっと寝室を覗くと真宵ちゃんがすやすや眠っていた。やれやれ、ちゃんと寝てくれたみたいだ。
テーブルの袋から冷えピタを取り出して寝室に入る。ベットに近づいて顔を覗くと、やはり顔色も悪く、少しつらそうな寝顔をしていた。
「…具合悪いなら言ってくれればいいのにな」
ぽつりとつぶやく。
この子は普段はやれみそラーメン食べたいだのやれトノサマングッズ欲しいだのと騒ぐくせに、辛いこと悲しいことは心の奥に隠してしまう子なのだ。
真宵ちゃんの波乱万丈な生い立ちを考えればそうなってしまうのも無理はないかもしれないけど…ぼくには甘えて欲しいんだけどな。
いつもより白い頬をそっと撫でる。そのまま額へ移動し、さらさらな髪の流れをなぞるように頭を撫でた。
布団から出てる手を中にしまってやろうと手をとったら、きゅうっと親指を握られた。
「ま、真宵ちゃん?」
小声で聞くけど、まぁ寝てるよね…。
そっとその手を握ってやったら、真宵ちゃんは寝たままふわりと笑って、
(うぅん…可愛いなぁ)
ぼくは1人にやけてしまった。

 * * * *

何かが迫ってくる。
ソレが何かわからないけど、巨大なソレはあたしを押し潰そうとすごい勢いで迫ってくる。
(いや)
逃げだそうとすると、まるで水の中にいるみたいに体が思うように動かない。必死でもがいて足を前へ出すけど全然進めない。
(いや、こわい)
ソレは轟音をたててあたしへどんどん迫り来る。
もうダメ、潰れちゃう…!
と思ったその時。ふわっと甘ったるい花のような香り。後ろからぐいっと振り向かされてそこにいたのは、
(あ、あやめ…さん?)
明るい色のサラサラの髪がなびいて闇に映える。にっこり笑う顔とは対照的に、あたしの肩をすごい力で掴んでいる。
(違う)
頭の中で警鐘がなる。心臓がバクバクいうのが聞こえる。
(この人は…!)
瞬間、キンと静寂が走る。
『アンタ、まだ死んでなかったの…アヤサトマヨイ』
怖いくらい綺麗な笑顔でするりとあたしの首に冷たい指を巻きつけて、ギリギリとゆっくり締める。
あたしは竦んだように体が動かない。
(や、やだ。やだやだなるほどくん助けて、なるほどくん…!)
あたしは力を振り絞って声を出した。
「……なる…ほどく…!た、助けて…なるほどくんっ!」
「真宵ちゃん!!」
なるほどくんの声が聞こえた気がした。

 * * * *

結局今日は事務所を休んでしまった。
自分の部屋のソファから痛いくらいの西日を見てぼんやり思う。
まぁ必要な書類は持って帰っていたからここでも仕事は出来るし、事務所の留守電も携帯から確認出来るから問題はない。真宵ちゃんはまだこんこんと眠り続けている。何度か様子を見にいったが、ぼくには見守ることしか出来なさそうだ。
(そろそろ冷えピタ貼り替えるかな…)
そっと寝室のドアを開けて入ると、かすかな声が聞こえた。
「真宵ちゃん?起きた?」
ベットを覗くと真宵ちゃんはまだ眠っている。うなされているようで、すごい汗だ。慌ててタオルを取りに部屋を出ようとすると、
「……なる…どくん…」
真宵ちゃんがうわごとでぼくを呼んでいる。
ぼくは再びベットのそばに戻り、真宵ちゃんの手を握った。
「…なるほどく……」
「真宵ちゃん、ぼくはここにいるよ」
「…たす…け……なる…ほ…」
なんだか相当悪い夢を見てるようだ。キツく閉じた目から涙が伝っている。
これは一度起こした方が良いのではないか、いやでも起こしていいのか…!?
迷う頭とは切り離された存在のように、気付いたら体が勝手に動いていた。
「真宵ちゃん!!」
手をぎゅっと握って肩を揺り動かして起こす。
「真宵ちゃんっ!!」
「あ…ぅ、なるほどくん…?」
「よかった……って、あ、ごめん…起こして」
あれだけ揺り動かしといて何言ってんだぼくは。真宵ちゃんはぼんやりした目でじっとぼくを見ている。
「なんだかうなされてたから……」
「なるほどくん…そばにいてくれたの?」
「あ、うん、まぁ…特に何も出来なかったけどね」
「そんなこと、ない…。…なるほどくんがそばにいてくれて…よかった…」
「真宵ちゃん?」
さっきの涙の跡に新しい涙が流れている。
体を起こそうとしたので背中を支えてやると、ベット脇に膝立ちしているぼくの胸にぽすん、と抱きついてきた。
「真宵ちゃん?」
「…ごめん……ちょっとだけ、こうさせて…」
少し震える声。
ぼくは布団を引っ張って真宵ちゃんにかけて、その上から背中をポンポンさする。
「…怖い夢、見てた?」
真宵ちゃんは無言で頷いて、ぼくの背中に手を回してぎゅっとしがみつく。
「………こわかった…」
小さな小さな声で囁いた。

 * * * *

夢はやけにリアルで、あたしはあの綺麗な笑顔を思い出すだけで背筋が寒くなった。首にまだ冷たい指の感触が残っている。
怖くて思わずなるほどくんに抱きついた。
「……ゆめの、なかでね?」
「ん?」
「…なるほどくん、呼んだの。助けてって」
「うん」
「そしたらね、本当に聞こえたの。なるほどくんの声」
「うん。真宵ちゃんの声、聞こえたから」
「そうなの?」
「うん」
「そっかぁ…えへへ」
なるほどくんにはあたしの声が届くんだな。なんだか不思議な安心感に包まれて、あたしはなるほどくんの広い胸に頬ずりした。
「真宵ちゃん。ほら、冷えるから寝な?薬も買ってきたから、何か食べたら飲もうね。あと冷えピタも貼り替えて…」
「くふふっ。なんかなるほどくんお母さんみたい」
「せめてお父さんにしてくれ…」
弱った顔してあたしの背中をポンポンさするなるほどくん。
あたし、何度でもなるほどくんの名前呼ぶからね。だから、なるほどくんも辛いことがあったらあたしの名前を呼んでね?
絶対、真っ先に駆けつけるから。


《終》

あれ、オチてない…!?ききき気のせいです!
牡丹は去年インフルエンザで40度近い熱を出したのですが、全然気づかないまま学校行ってました。
真宵ちゃんもそのくらい健康なはず!なお話でした。

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