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逆転裁判SS
雨のち笑顔
「あ…あたしのトノサマンDVD限定版特別付録…!…なんで捨てちゃったのぉ!?」
「ごめん…」
「見るからに必要じゃない!なんで捨てちゃうかなぁ」
「…だからごめんってば」
「あれもう売ってないんだよ!?もう!なるほどくんのばか!」
「……だから謝ってるじゃないか。だいたい机の上片付けろって言ったのは真宵ちゃんだろ?」
「でもアレはいらないやつじゃないもん!」
「だったらぼくに片付けろって言う前に自分で片付けろよ!」
「なにそれ開き直り!?あったまきた…もうなるほどくんなんか知らないっ!!」
「ぼくだって知らないからな!」

雨のち笑顔


うつぶせで頭まで布団にくるまってブツブツと呪詛のごとく愚痴を吐く。
ああ思い返すだけでムカムカしてくる。よりによってあのレアグッズを捨てちゃうなんて。御剣検事だって持ってないやつなのに。
信じらんない。なるほどくんのばか。ばかばかばか。呪ってやる。
足を勢いよくバタバタしてマットを蹴る。いつもなら2人で眠るこのベッドに、なるほどくんはいない。あたしが追い出したからだ。
ぼくのベッドだぞ!とか喚くなるほどくんに武士の情けで毛布を一枚投げつけてやった。今頃ソファでしょんぼり反省してるだろう。
「あーひろいなぁ!」
手足を広げてバタバタするのだって、寝返りだって思いのままだ。でも手足を広げた先の布団はひんやり冷たくて、結局はちんまり丸まってじっとしていた。
(寒い…。なるほどくん大丈夫かなぁ)
自然と心配した自分に、いやいやいやなるほどくん体温高いし大丈夫でしょと慌てて自分自身で返事をする。
(なるほどくんにはきっちり反省してもらわなきゃ!……でもあたしもちょっぴり、悪かったよね…)
なるほどくんのいないベッドは寒くて、なんだか寂しくて…だんだんあたしのほうがしょんぼりしてきた。
なるほどくん。早く謝ってよ…。


「ぶぇっくしょ!」
さほど大きくもないソファで丸まって、くしゃみでずれた毛布をしっかり体にかけつつブツブツと文句を言う。
ここ、ぼくのうちだよな。なんでぼくがベッド追い出されるんだよまったく。
だいたい真宵ちゃんは反省というものを知らないからいかん。たしか先月もトノサマンカードが一枚ないとか騒ぎだして結局事務所のデスクにあったばっかりじゃないか。
「ふ……へっくしゅ!」
うう…やっぱりちょっと寒いな…。てゆうか寝心地がよくない。さっきから何度ももぞもぞしてるけど、なかなかいいポジションが見つからない。
「はぁ…」
(ちょっと言いすぎたかなぁ…)
その考えにハッと慌てて否定する。
(いやいや、甘やかしてばっかじゃダメだろう。ここは男としてビシッと言っとなかいと)
そのわりにはソファに追いやられているのは自分なのだが。
(ビシッと、ねぇ…)
さっきのはただの売り言葉に買い言葉だ。全然ビシッとしてないどころかただ幼いだけの物言いに自分でげんなりする。
真宵ちゃんはもう寝ただろうか。今から謝ったらベッド入れてくれるかな…。
再びため息をつくと、寝室のドアが静かに開く気配がした。
「………おトイレ」
「……いいよ言わなくて…」
ぼそりと言うと、真宵ちゃんはぷいっとそっぽを向いて明かりもつけずにペタペタとトイレへ行ってしまった。
(……謝るんじゃなかったのか、ぼく)
はぁぁと大きく息を吐く。そのうち水音がしてトイレのドアが開く音がした。なんて謝ろうか…
「ぅひゃあっ!」
ドタガタターン!
「っ!?」
トイレから突然何かがぶつかるような物音が響いた。慌ててソファから飛び起きて駆け寄る。
「ま、真宵ちゃん…どうした?」
「………うぅ…痛いぃ…」
パチリと明かりをつけると、トイレのドアの前に真宵ちゃんが倒れていた。
「真宵ちゃん!ど、どうした…?」
「……転んだぁぁ」
「大丈夫?どっかぶつけた?」
「……ほっぺ…あと頭ぶつけた…」
「見せてごらん」
どうやら暗闇の中で何かにつまづいたらしく、転んで向かいの壁に頭をぶつけたみたいだ。
しゃがんで、床にうずくまってる真宵ちゃんの上半身を抱き起こしてみると、よほど痛かったのか涙目で、そしてバツが悪かったらしく口を尖らしてうつむいてしまってる。
その様子がなんだか微笑ましくて、ぼくは思わず吹き出しそうになってしまって、さっきのモヤモヤした気持ちなんかもうどうでもよくなってきた。
「あぁ…ほっぺた、ちょっと擦りむいてるな」
「もうっ全部なるほどくんのせいだよ、ばかぁ…」
「わかったわかった…どれ」
「ひゃうっ!」
泣きそうな声でなお強がる真宵ちゃんがなんだか可愛らしくて、頬のすりむいた所に唇を寄せて舐めてあげた。
「なっなななるほ…せ、せくはらだよっ!」
「なにをいまさら」
「や、ひゃうっくすぐった…あは、あははくすぐったいよぅ」
頬をペロペロと舐めてみたら真宵ちゃんがゆるゆると笑い始めた。その拍子に目にたまっていた涙がぽろぽろとこぼれ落ちて、ぼくはひと粒も落とさないように舌で拭った。
「イタイのとんでった?」
「もーまたそうやってオコサマ扱いして!」
「ハイハイよしよし、ほら立てる?」
「んー…やっぱりイタイから抱っこして?」
「ハイハイ」
どっこいせと抱き上げると、真宵ちゃんはぼくの首に腕をまわしてぐいっと近づいた。イタズラっぽい笑顔が目の前にあらわれる。
「さっきのレアモノのことだけどさ」
「ん?」
「みそラーメン5杯で許してあげるよ!」
いやぁ真宵ちゃん太っ腹だよね!と得意げにニーッと笑う。みそラーメンで元に戻れるならなんかもうそれでいいや…とぼくもつられて吹き出してしまった。
「あれ、ちょっとなんで笑うの!?」
「いや…ぶふふっ」
「もうっ、そんな笑うなら10杯にしてもらうよ!」
「あぁもう、ごめんごめんってば」
頬をぐにぐにとつねられた。でも真宵ちゃんにもぼくにも、さっきみたいなトゲトゲした嫌な空気はなくなった。
2人でケタケタ笑いあって、当たり前みたいに一緒に眠った。朝起きた時にはケンカのことなんてすっかり忘れてしまっていたけど、真宵ちゃんはみそラーメンの約束をシッカリ覚えていて、その夜しっかり5杯以上平らげたのだった。

《終》

同棲ってお互いの譲歩が大事ですよね…。
ずっと一緒にいるならたまにはケンカもあるけど、きっと譲歩するのはいつもなるほどくん(笑)

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あきゅろす。
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