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逆転裁判SS
お腹いっぱいの愛を
「今日は何作ろうか〜」
「肉買おうよ、肉」
「そうだねぇ、何肉がいい?」
「うーん…豚肉」
「お!今日は豚肉安いよ」
「買う?」
「うん。でもなるほどくん最近太り気味だからお肉無しね」
「ええっ!?なにそれ、じゃこの肉は!?」
「あたしが責任持っていただきます」
「異議あり!断固異議ありぃ!」
「異議はそのハミ肉がとれるまで却下します」
「ひ、ひどい…!!」

お腹いっぱいの愛を


「ぷはぁー。お腹いっぱい」
「結局いっぱい食べちゃって。お肉増えても知らないよー?」
「だって真宵ちゃんのカレー美味しいからさー」
「……なるほどくん、酔ってるね?」
「そんなことないって」
ちょっと不機嫌そうに頬をふくらませてるけど、これは彼女の照れ隠しのクセなのだ。
ほろ酔いでいい感じに上機嫌のぼくの視線をかわすように、真宵ちゃんはざかざかと皿やコップをまとめて片付けだす。
「そういえば…なんか変わった?」
「へ?何がー?」
「カレーの味」
「あぁ。…ふふふ、わかった?」
「まぁ、真宵ちゃんよくカレー作るしね」
「えへへー」
真宵ちゃんはカレーの皿を水に浸けながら、なぜだか嬉しそうに微笑んだ。くるりと振り返ると、イスに後ろ向きに座るぼくと同じ高さに顔を寄せて、ふふふと笑った。
「あのカレーはね、お母さんの味なんだ」
「! へぇ…そうなんだ?」
真宵ちゃんはあったかい笑顔でえへへと笑うと、再びくるりと流しのほうへ向いた。
「葉桜院でさ、お母さんのカレー食べたでしょ?」
「うん」
「でねでね、すっごく美味しいなぁって思ったの」
大事な大事な宝物の箱を開くように、ゆっくりと話す。
あの時、エリス先生…綾里舞子さんがぼくらにカレーを作ってくれた。ビキニさんはエリス先生の正体を最初から知っていたし、本家家元のお客様に夕食を作らせるはずはない。
きっとエリス先生自ら作りたいと申し出たんだ。真宵ちゃんに、食べてもらいたくて…。
「…うん。美味しかったもんね」
「でしょー?特別ウマイッ!て言うんじゃないんだけどさ。…なんだか懐かしいような、あったかい味がしたんだよね」
さすがはあたしとお姉ちゃんのお母さんだよね!と笑いながらカチャカチャと皿を洗う音が楽しげに響く。
「まぁ…今思えばさ、お母さんの味をお姉ちゃんが覚えてて、あたしはそのお姉ちゃんのカレーで育ったようなものだしさ。そりゃあ懐かしいわけだよね」
「そっか…そうだね」
「それでね、後ではみちゃんに聞いて、隠し味とか作り方を教えてもらったんだ」
「あぁ。だから少し味が変わったんだね」
「うん。美味しかったかな?」
皿を洗い終えて手を拭く真宵ちゃんはやっぱり綺麗な笑顔で。その手を引いて座り直したぼくの膝に座らせる。
「や、なに?なるほどくん?」
上目遣いでびっくりしたように見上げる真宵ちゃんの前髪をかき上げて、おでこに長めに唇を押しつける。
「…美味しかったよ。すっごく」
「でしょ?頑張ったんだから!」
お母さんの味に近づいたかな!と嬉しそうに笑う真宵ちゃんの笑顔に陰りはない。この子がこうして綺麗に笑えるまで、いったいどれほどの涙を影で流したのだろう。
ぽんぽんと頭を撫でるとイタズラっぽく見つめてくる。
「もうね、綾里家の秘宝の掛け軸にも書いちゃったんだよ、レシピ」
「えぇっ!?それは…大丈夫なのか…!?」
「だーいじょうぶ!だってすっごく大切なコトだもん」
腕の中からにっこりと笑う。その笑顔はまるで小春日和の太陽みたいに明るくて柔らかだ。
真宵ちゃん、君は知ってるかな。君の笑顔はとてもあったかくて、見てるぼくまでほこほこと内からあたたかくなるってコトを。
この温もりはきっと、君をあたためるためなんだ。
「だからあたしね、いっぱいカレー作るんだ。オフクロ味のカレー!」
オフクロ味ってなんか微妙な響きだな…と言いながら、ぎゅうっと包みこむように抱きしめた。
「うん。いっぱい作ってよ。ぼくもいっぱい食べるからさ」
細い肩に顔をのせて言うと、真宵ちゃんはクスクス笑ってぼくに頭を寄せた。
「えぇー。なるほどくん食べる専門?」
「時々手伝います…時々」
「しょうがないなぁ」
「その味をさ、うちの味にしよう」
「うん」
自然に口から出たセリフに、言ってからあれ?これってプロポーズ?とか思ったけど、なんだかお互い当たり前のことみたいに穏やかで。
これはこれで良い気がしたけど、もうちょっとだけ踏み込んでみようかなと言葉を繋げる。
「…でさ、次に伝えていくんだ」
「次って?」
「ぼくらの、こども」
「こ……」
パッと真宵ちゃんが顔をあげる。ぼくも体を少し起こして顔を見ると、真宵ちゃんはびっくりした表情でぼくを見上げている。
「あはは。真宵ちゃん、顔真っ赤」
「う…うるさいなぁ」
潤んだ目を伏せながら、真っ赤な頬を不機嫌そうにふくらませた。


《終》

当サイトでは真宵ちゃんはこの時点で計3回カレーを作ってます。なぜかカレーばかり…特に意味はなかったんですが(^_^;
最後に一緒に食べれたお母さんのカレー、きっと大切な思い出だと思います。

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あきゅろす。
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