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逆転裁判SS
つぼみ * ほころびて
なるほどくんと歩く夜道。たわいない話をしながら手をつないでゆっくり歩いていく。
事務所からの帰りはよく送ってもらってるし、いつものコト、なんてことないハズ、なんだけど。
あたしは今、ちょこっとだけ浮かれたような緊張したような、ふわふわした不思議な気持ちで歩いていた。
(きっとコレのせいだ)
薬指にはめられた指輪をそっと触る。
ひんやりしていてまだ慣れないその存在だけど、触れるだけでドキドキと胸が高鳴った。

つぼみ * ほころびて


「送ってくれてありがと、なるほどくん」
あたしのマンションのドアの前まで送ってくれたなるほどくんにお礼を言う。
「うん。ちゃんとあったかくして寝るんだよ」
「もう、心配性だなぁなるほどくんは。クシャミのひとつやふたつ、あたしの敵じゃないよ!」
「さっきクシャミ連発して寒い寒いってぼくのマフラーを奪ったのは誰だよ」
あははと2人で笑う。
笑い声が止むとマンションの廊下の、がらんとした静けさが辺りを包んだ。
「じゃあ…また明日」
「…うん」
口はそう言ってるのに、あたしはなんだかつないだ手を離したくなくて、なるほどくんの手をぎゅっと握った。
「…真宵ちゃん?」
「あ、えっ!えーと!?あのっ…その…」
「うん?」
まだ一緒にいたい。
素直にそう言えたら楽なのだけど。あたしは必死に別の言い訳を考えていた。
どうしよう、うまい言い訳が見つからないよ…。何を言っても絶対わざとらしい気がして、あたしはうつむいたまま黙ってしまう。
「…真宵ちゃん」
「え?ひゃっ……っ!」
なるほどくんがあたしを呼ぶと同時に突然つないだ手をひっぱった。そして少しかがんで顔が近づいて、気づいたら唇にあたたかいものが触れていた。
「……おやすみ」
びっくりして声も出せなくて、なるほどくんがエレベーターに乗って帰るのをあっけにとられたまま見送ってた。
ふわふわする足取りのまま、なんとか玄関のカギを開けて中に入ると、力が抜けてペタンと座り込んだ。
「…………キス…した……」
冷たくなった指でそっと唇に触れてみると、さっきのぬくもりを思い出して「うきゃあああ」と真っ赤な顔を覆ってクビをぶんぶん振りまわした。
「…ゆ……指輪までもらっちゃったよぅ〜」
もう1日で色々ありすぎて頭がパンクしそう。助けてお姉ちゃん…!
そうだ。お姉ちゃんならきっと聞いてくれる。
「お、お姉ちゃーん…」
立ち上がってよろよろと歩き出す。居間の小さな仏壇の前で再びペタンと座り込んで今日の事を話していくと、向かいにお姉ちゃんが微笑みながら座っているような気がしてきた。

ちなみに、エレベーターの中で同じように真っ赤な顔を手で覆っていたなるほどくんがいた事を知ったのはだいぶ後のこと。


《終》

間があいちゃいましたが、つぼみのおまけです〜。
短いですが、初めてのチューの話です。でへ。

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あきゅろす。
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