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逆転裁判SS
おとなの味
「遅いなぁなるほどくん…」
書類の仕分けも事務所の掃除も終わってしまい、ふぅと息をつきながらソファに座る。
時刻は17時30分。なるほどくんは今事件の調査に行っている。
普段ならあたしもついていくのだけど、お昼まで里で用事があったため、今日はその後からずっと事務所でお留守番なのだ。
「あーあヒマだなぁ。この時間は面白い番組もやってないし…」
ぐうぅぅ〜
「うぅ」
お腹まですいてきた。
「何かないかなぁ」
ソファから立ち上がって給湯室へ移動する。
あたしのおやつ入れは…空っぽだ。
「そっか昨日食べちゃったんだ……ん?」
盛大なため息をついてくるりとまわると、流しの横のスペースに見慣れない包みが置いてあった。
「なんだろコレ?えーと…しょ…こ……チョコ!?」
包み紙の横文字から察するに、これはどうもチョコのようだ。
(こんなとこに置いてあるってことはお客さん用じゃあないよね…うん!)
よしっ!と勢いよく包みを開ける。
「いっただきまーす!」

おとなの味


「ただいまー」
ようやく事務所に帰ってこれた。
今日の調査は場所は遠いわ山の上だわでもともと無い体力が絞り取られたようだ。膝が笑っている。ソファに資料でパンパンになった鞄と上着を投げて、自分もドサッと座る。
事務所を見まわすが真宵ちゃんがいない。
いつもなら帰ってきたらお土産は?とかお腹すいたーとか騒ぎだすのに、まったく姿が見えない。
「おーい、真宵ちゃん?いないのか?」
里から帰ってきてるはずの真宵ちゃんを呼ぶが返事がない。
明かりはついていたし鍵も開いていたからいるはずなのだが…。
何か不安を感じ、背中に嫌な汗が流れる。
「真宵ちゃん…?」
そろりと立ち上がって所長室を見る。いない。
となるとトイレか?と考えていると、どこかから微かに呻き声が聞こえた。
「こっちか?」
声の聞こえた方へ進み給湯室のドアを開けると、床に真宵ちゃんが座り込んでいるのが見えた。
「ま、真宵ちゃん!どうした!?」
「……んん…」
慌てて肩を揺すり俯いた顔をあげさせると、顔が少し赤く目はとろんとしている。
「どうしたの!?どこか具合が悪いのか?今病院に…」
「…んにゃはは〜なるほどくんだぁ〜」
座り込んでいる真宵ちゃんを抱きかかえようとしたら、真宵ちゃんは珍妙な声をあげて逆に思いっきり抱きついてきた。
中腰の時に勢いよく抱きつかれたので、ぼくはバランスを崩して真宵ちゃんを抱えたまま尻餅をつき、ついでに狭い給湯室のドアに頭をガツンとぶつけた。
「いってぇぇぇ!…って、ま真宵ちゃん!?」
「えへへぇ〜遅いよぉ〜なるほどくーん」
何か様子がおかしい。
ほんのり酒の香りがしているのと真宵ちゃんの口の端に少しついたチョコを見て、ハッと流しの上の開いた包みを見上げる。
「真宵ちゃん、あのチョコ食べたのか!?」
「ん〜?あはアレ美味しかったけど、不思議な味するねぇ〜」
「あ、あれは確か…ウイスキー入りのチョコだった気が…」
「ういすき…なにソレあはははははは」
「おいおい…」
納得した。
真宵ちゃんは今朝依頼人からもらったウイスキー入りのチョコを食べて酔っぱらってしまっているのだ。
座りこむぼくの首に腕をまわしてケラケラ笑いながらじゃれついてくる真宵ちゃんを見てため息をつく。
「…まぁ、具合が悪いとかじゃなくて良かったよ」
「えへへ〜、なるほどくん、心配だった?」
「当たり前だろ、あんなところに座り込んで…。ほら真宵ちゃん、もう立って」
「えぇ〜やだやだ!まだこうしてるの〜!」
「おわっ」
またしても思いっきり抱きつかれ危うく押し倒されそうになるが、床に手をついてなんとか堪える。
「真宵ちゃーん…ぼく調査で疲れてるんだけど…」
背中をぽんぽんと撫でながらため息をつくと、首もとに顔をうずめて今まで笑っていた真宵ちゃんから、突然すすり泣く声が聞こえた。
「まま真宵ちゃんっ!?」
「…うぅっ…ど、どうせ…あたしなんか…ぐすっ」
「えぇっ!?いやいやえーとごめん、ごめんなさい!」
「…ぐすっぐすっ…なるほどくん…あたしの気持ちなんて、わかってくれないんだぁ…うぅっ」
「そんなことないって!真宵ちゃんっ??」
「だってさ…?あたしがいくらトノサマンスペシャルがいいって言っても…サッカー見ちゃうしさ…っ!」
「えぇっ!?だってアレ10回は見ただろ!?」
「うわぁぁん」
「うわわわごめんっごめんってば…!真宵ちゃーん、頼むよ泣かないでー」
あぁ酔っぱらいってタチ悪いな…まぁ真宵ちゃんだから可愛いんだけど、泣かれるのは参ってしまう。
背中と頭をよしよしと撫でてなだめるが、真宵ちゃんは泣きながらぎゅうっと抱きついて離れない。
多分甘えたかったんだろうな…昨日まで春美ちゃんが来ていたし、真宵ちゃんは春美ちゃんの前だとガマンしちゃうから。春美ちゃんが帰ってしまって寂しいのもあると思うし…。
酔って少しタガが外れたという訳か…。
「真宵ちゃん…今日うち来ない?」
「ぐすっ…、う?」
「一緒にトノサマン見てさ、みそラーメン食べようよ」
「一緒、に…?」
「うん、一緒に」
「…うん…行く」
「じゃあ…とりあえず立とうか」
「………」
「真宵ちゃん?」
「すぅ…すぅ…」
返事がないので不思議に思ってると、真宵ちゃんから安らかな寝息が聞こえてきた。
「寝……まぁいいか…」
がっくりと、起こさない程度だが盛大にため息をつき、よいしょと抱きついたまま寝てしまった真宵ちゃんを落ちないように支えて立ち上がり(なかなか大変だった)、ソファに寝かせて上着をかける。
「はぁ…なんかどっと疲れた…」
お茶でも飲むかとヨロヨロと給湯室に戻ると、例の包みの箱に丸いチョコがひとつだけ残っていた。
それを口に放り込むと、チョコの甘みとウイスキーのいい香りと酒特有の苦みが口の中に広がる。
「お…うまい」
確かにちょっと強めかなと思うが、これであれだけ酔ってしまうなら、お酒なんかまだまだダメだな。だいたいまだ未成年だし。
「真宵ちゃんにはまだ早いよ」
湯を沸かして自分用のコーヒーと真宵ちゃん用にココアをいれ、ココアには牛乳と砂糖を加える。
これくらい甘いのが、甘いあの子にはよく似合うんだから。


《終》


突発的に書いちゃいました。
ウイスキーボンボン、最近見ないけどあるのかなぁ。
小さい頃は味がよくわからなかったけど、大人の今ならぜひとも食べてみたい。

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